ビットコイン(BTC)マイニング、2019年1月の環境概況を整理

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ビットコイン(BTC)マイニング環境概況

BTCマイニング環境概況(2019年1月)

遅ればせながら明けましておめでとうございます。本年もどうぞよろしくお願いいたします。
今回は、前回12月執筆時点からのBTCハッシュレートとディフィカルティの変化、そして各装置の収益ラインに関する基礎環境を整理していきます。一見マイニングに関する数字は先月から大きな変化が無いように見えますが、その結果に至った原因と考えられる背後の動きについても論じます。(データは1/20取得)

前回:PoWマイニングの収益関数とディフィカルティの関係

ハッシュレートとディフィカルティ

先ずハッシュレートとディフィカルティの推移を図1で確認しましょう。先月上旬に記事を出した時期はハッシュレートの(一時的な)底でした。その後12月中旬から1月にかけて値を戻しています。この理由についてバチッと言い当てることは困難ですが、例えば一部で噂されていたマイニング装置の移設完了が一因かも知れません。

特に中国で電力コストの比較的高い地域から、安価な電力が得られる「中東」に装置が大規模に移設されているという話が大手マイニングプール関係者の話として浮上していました。馴染みのない方には気温が高く、マイニング界隈でよく用いられる水力発電とも縁遠そうな中東でマイニングというのはしっくりこないかもしれません。

しかし、UAEを含めたアラブ諸国は近時太陽光発電に力を入れており、近隣諸国の安価な労働力を活用して3cent/kWh以下の電力を供給できるようになってきています(参照:Nature Energy)。

中には1centを切るところまであるようで、中東は今や充分なマイニング向けインフラ競争力を備えており、この点でマイニング候補地となる事に疑問の余地はないのです。もし噂通り移設が11月頃から進められていたならば、12月から再稼働し始めてそれがハッシュレートを多少押し上げた可能性はあるでしょう。

ビットコイン(BTC)マイニング環境概況図1:BTCハッシュレートとディフィカルティ

今ひとつハッシュレートが上がりきらないのは、安価な環境に移設した装置群の再稼働に新世代マイニング装置の稼働開始を合わせても、競争力のないマイニング施設の操業停止・閉鎖のペースが未だに衰えないからだと思います。後ほど図示しますが、旧式の(しかし相当台数が稼働している)Antminer S9の場合、$3,500の実勢レートでは6cent/kWhでようやく採算が取れます。

もちろんまともなファームならば何らかのヘッジ戦略を採用しているはずなのでもう少し下でも耐えられるはずですが、単純な装置性能と電力コストの観点から算定するとこの値になります。詳しい数式は前回記事をご参照ください。

しかし投資家から資金を調達してマイニングを行っている場合、仮に6cent/kWhで運用できたとしても、相当なBTC高USD安を見込んで掘り続けるくらいなら直接BTCUSDを購入して保有するでしょう。余計な出費も減りIRRが改善します(一部マイナーは減税メリットを享受出来るスキームを採用していると思いますが、あまり細かいところに深入りするとキリが無いので、本連載では純粋な装置性能と “諸々転嫁した” 電力コストで議論しています)。このような状況では操業停止が続くのもやむなし。

Antminer S9iの採掘コストとBTCUSDレート

次にAntminer S9(0.104 kJ/TH))より多少電力効率の優れるS9i(0.094 kJ/Th)で1BTC当たりの採掘コストを推定してみましょう。トップクラスの普及台数を持つS9の性能を軸に、新世代機も出回り始めている事に鑑みて、少し高性能側にパラメータを振ってのシミュレーションです。電力コストは7cent/kWhとします。これは私がグローバルでの競争力を持てるギリギリのラインと踏んでいる値で、正味の電力価格に運用に係る費用を乗せたものになります。

ビットコイン(BTC)マイニング環境概況図2:7cent/kWh運用下でのAntminer S9i採掘コストとBTCUSDレート

上の図2が計算結果です。今回設定したパラメータで求めた採掘コストがちょうど現在のBTCUSDと同等になりました。「込み込み7cent」での運用は世界的に見ればかなり優秀な方でしょう。しかしこれでも今のBTCUSDレートでは、S9より一段優れた性能を持つ装置で漸く採算が取れるラインなのです(繰り返しますが然るべきヘッジをしていれば話は別)。
視点を少し変えます。

7cent/kWhのコストで採算が取れる装置の電力効率は幾らなのか。前回記事でこのような採算ラインを \(f_{A0}\) と表していましたが、その時系列プロットが次の図3です。日本時間1月20日に海外からデータを取得したためにcurrent dateが1/19になっています。

ビットコイン(BTC)マイニング環境概況

図3:7cent/kWh運用下でのASIC損益分岐電力効率 \(f_{A0}\)

この図で見て取れるように、現在採算が取れる装置の電力効率は昨年12月同様に史上最低近くという厳しさです。しかし昨年と今とでは少し状況が違います。昨年末からAntminer S15のような新世代機が出回り始めました。高効率装置が出回ったことでこの \(f_{A0}\) が押し下げられた可能性があり、そのような装置を運用しているマイナーからすればこのラインはさほど厳しくありません。

その証拠に、Antminer S15の場合Bitmain公式では購入手続き後7日以内に入手出来るほどの不人気ぶりですが、より性能の優れたEbangのE11++の場合、今購入しても3月末出荷となる人気ぶりです(生産数の違いもあるでしょうけれど)。それだけ一部のマイナーは現況でも収益を見込めているのです。

新世代機の収益性

最後に主な新世代機らの採掘コストを図4にまとめました。(運用)電力コストを5-8cent/kWhの範囲で表示しており、装置の償却は計算に含めていません。

ビットコイン(BTC)マイニング環境概況図4:各運用コスト下における新世代機らの採掘コスト

例えばEbangのE11++の場合、8cent/kWhの運用でも$2,000まで、5centなら$1,000台前半まで耐えられます。不人気のS15でも8centで$2,600弱まで耐えられます。今の相場環境で新機種の導入が何処まで進むか分かりませんが、そこかしこで積極的な導入・入替が行われているという話を仄聞しています。

原則、前節で論じた電力効率のラインはこれら新機種の導入が進むほどに下がるでしょう。下げ方には幾つかのシナリオが考えられますが、恐らく蓋然性が高いのは、ハッシュレートは上がるがBTCUSDレートを伴わないパターンでしょう。いわば「潰し合い」です。新機種を駆使した潰し合いが高じれば、図から見て取れるように$3,000を割るようなBTCへの下げ圧を生じても不思議ではありません。

ちなみに古い機種も赤字だからといって使い道が無いわけではありません。最もニッチな使い道としてネットワーク攻撃に悪用する事も出来ますし、競争力の無い施設から装置をごっそり買い取って自社の安価なインフラを活用して薄利を積み上げる有力者もいるでしょう。赤字だからといって「停止/廃棄」だけが選択肢とは限りません。

上記に関して余談ですが、先日ETCネットワークに対する51%攻撃がありました。51%攻撃に係るコストを表しているサイトとして有名なcrypto51.appによれば、ETCネットワークの1時間分攻撃コストはNiceHash相場に基づいて約$4,200と推定されています。NiceHashで調達できる攻撃能は、なんとネットワークの85%。

一方、BTCの攻撃コストは1時間当たり$285kと算定されているものの、NiceHashで調達できる攻撃能はゼロ%となっています。つまりNiceHashでは、現状BTCネットワークを「攻撃」できるほどのハッシュパワーは調達できないということです。他のメジャーアルトで見ると、ETH 4%、BCH 2%程度でいずれも市場調達は困難です。このような状況から、市場でハッシュパワーを調達出来ないメジャー通貨への攻撃を目論んで、多少の赤字を抱えてでも旧式装置を買い集め動かそうとする者も世界のどこかに居るでしょう。

結言

先月の執筆時点から、収益を生み出せる電力効率の限界値 \(f_{A0}\) はほとんど変わっていません。ただし、これは新機種の導入と旧機種の運用停止がバランスしている蓋然性が高く、その点が先月と異なると考えています。

今後新機種の普及が進めば、市場環境の悪さも相まって限界効率はさらに下がるでしょう。しばらくはBTCUSDにもかかる下げ圧にマイナーとトレーダー双方悩まされる局面が続くかも知れません。

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