ステーブルコインはBTCの救世主となれるのか?~モバイル決済での覇権をかけてゴールドマンとIBMの頂上対決も?

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ステーブルコインはBTCの救世主となれるのか?~モバイル決済での覇権をかけてゴールドマンとIBMの頂上対決も?

ステーブルコイン(Stable Coin)への巨額投資が話題となったことで、その存在への注目度が高まっている。ステーブルコインとはその名の通り、値動きが安定した仮想通貨のことで、一攫千金を狙う仮想通貨の投機家にとっては退屈な通貨に見えそうだが、このステーブルコインに著名投資家らが桁はずれの資金を投入しているというからわからないものだ。

実はステーブルコインは人気凋落に歯止めが見えない仮想通貨の救世主となる可能性を秘めているほか、現金やクレジットカードに変わる決済手段として革新的な金融サービスを生み出すことが想定されており、だからこそ莫大な資金が湯水のごとく注がれているのだ。ステーブルコイン界隈の最近の動きをかいつまんで紹介しつつ、課題や展望をちょっと大胆にまとめてみる。

ステーブルコインへの巨額の投資、仮想通貨普及の切り札へ

最近の仮想通貨市場は昨年の喧騒がうそのように落ち着き払っており、特にイーサリアム(ETH)を除くアルトコインは不気味なほど静まり返っている。理由はさまざまだが、仮想通貨が「通貨」としての役割を果たしていないこともその一つに挙げられている。すなわち、決済に利用できないことが普及を遅らせており、その影響で人気に陰りが出ているとの見立てである。

仮想通貨は動きが激しいため、比較的流動性の高いビットコイン(BTC)であっても決済手段として利用されることはまれである。来週の支払いに利用しようと思っても、気がついたら価値が半分になっていたというので困るのだ。

そこで今、仮想通貨業界が知恵を絞っているのがいかにして仮想通貨での決済を実現するかであり、そのツールとしてステーブルコインの開発に心血が注がれている。値動きの安定したステーブルコインが実現できれば、このコインを利用することで仮想通貨の普及が一気に進み、再び活況を取り戻すことが期待されている。

また、仮想通貨での決済が普及すれば、既存の決済システムである現金やクレジットカードの利用が減少することが見込まれるので、決済に絡んだ金融サービス業は大きなビジネス転換を迫られることになるだろう。

このように、ステーブルコインは停滞気味の仮想通貨業界の救世主として、また金融業の未来を変える革新的なツールとして注目されており、その開発に巨額の資金が投じられている。

サークル社が120億円を調達、SECへの登録や銀行免許取得も準備

たとえば、今年5月には仮想通貨大手のサークルが1億1000万ドル(約120億円)を調達をした。同社はモバイル決済アプリ「サークル・ペイ」で有名だが、仮想通貨取引アプリ「サークル・インベスト」や仮想通貨取引のプラットフォーム「サークル・トレード」を提供しているほか、今年2月には仮想通貨取引所「ポロニエックス」を買収するなど仮想通貨関連ビジネスへの事業シフトを展開中である。

関連:ポロニエックスがサークル傘下に。この買収劇が示唆することとは?

また、6月には米証券取引委員会(SEC)への登録と銀行業免許の取得に向けて、協議を進めていることも明らかとなっている。SECへの登録は「ICOは証券」とのSEC見解への対応となる。ICOにより仮想通貨は次々と発行されているが、これらが証券となればSECへの登録なしには取り扱いができない。また、銀行業の免許を取得することでドルやユーロ、円といった法定通貨を金融機関に依存することなく自由の取り扱えるようになる。

ドル連動型ステーブルコイン、名を捨てて実を取る

サークルは世界最強の投資銀行ゴールドマン・サックスや中国の検索エンジン最大手である百度(バイドゥ)が出資していることでも知られており、後ろ盾が強力だ。ステーブルコインの開発はマイニング大手のビットメインとの共同事業となり、コインの名称は「サークルUSDコイン(USDC)」になるという。

参考:Bloomberg

USDCはその名前からも分かるようにドルと連動し、1USDC=1ドルに固定されるので、仮想通貨の特性の一つである非中央集権システムとは言い難くなる。たとえば、ビットコインと連動させることで分散型システムを維持することは可能だが、これはこれで価格を安定させることがより困難となり、設計も複雑で開発の難易度も上がる。法定通貨との連動は名を捨てて実を取ったといえるだろう。

当面の目標は、サークル・ペイとサークル・インベスト、サークル・トレードを統合し、モバイル決済と仮想通貨取引を融合することにある。サークルの利用者は既に700万人を超えており、仮想通貨を利用したスマホ決済での先行者利益が期待できる。実装のハードルが低いとされるドル連動型のステーブルコインの選択には、開発に時間をかけたくないとの実情も見え隠れしている。

「Basis」が150億円を調達、a16zも出資で本命候補に

また、今年の4月にはステーブルコイン「Basis」の開発に取り組むIntangible Labsが1億3300ドル(約150億円)を調達している。ステーブルコインには法定通貨や金、ビットコインなど何らかの資産に価格を連動させるペッグ型と資産の裏づけを必要としない非ペッグ型があり、後者を代表するのがBasisだ。

Basisの資金調達ではその金額のみならず、出資者の顔ぶれでも話題を集めた。ヘッジファンドの帝王ジョージ・ソロス氏の片腕として知られる著名投資家スタンリー・ドラッケンミラー氏を始め、世界的に著名なベンチャーキャピタル(VC)であるベイン・キャピタルやグーグルなどそうそうたる顔ぶれが並んでいる。中でも、フェイスブックやツイッター、スカイプなどへの投資で有名なVC、アンドリーセン・ホロウィッツ(a16z)の出資は、数あるステーブルコインの中でもBasisが本命視されていることを匂わせている。

参考:REUTERS(1)

Basisの安定性には疑問の声、下落時の対応に課題

Intangibleは「仮想通貨のボラティリティ(価格の変動性)の高さが仮想通貨の普及を妨げている」と指摘しており、価格の安定した仮想通貨を作ることで仮想通貨の普及を後押ししたい考えだ。

Basisの価格安定メカニズムは価格が上昇したら供給を増やし、価格が下落したら供給を減らすという単純な仕組みである。ただ、概念的には安定するはずだが、現実世界でうまくいくのかどうかははっきりとしない。

たとえば、キャベツの価格を安定させるために、価格が上昇したらたくさん作ることで価格を下げることはできそうだ。ただし、価格が下がった場合に問題があり、キャベツそのものの人気がなくなってしまった場合には、供給を減らしたからといって価格が戻るとは限らない。キャベツと似ているが、よりおいしくてしかも安い野菜が作られたとしたら、誰も見向きをしなくなるかもしれないからだ。

Basisは法定通貨に依存しない非中央集権的システムであることから、USDCと比べると仮想通貨本来のイメージにぐっと近づく。とはいえ、理想を追求している分、価格の安定メカニズムを構築するための技術的なハードルが高く、実装までにはまだ時間がかかるとみられている。

IBMがついに仮想通貨に参入、クレジットカードを駆逐へ

こうした動きとは別に、ブロックチェーン業界の巨星IBMが7月に仮想通貨事業への本格参戦を表明したことも注目を集めている。

IBMはブロックチェーン旋風の立役者でありながらも、これまでは仮想通貨事業とは距離を置いてきた。その理由は明らかではないが、仮想通貨はブームに乗っただけであり、いずれは消えてなくなる存在であり、残るのはブロックチェーン技術との読みがあったことを匂わせている。仮想通貨はブロックチェーンを利用したサービスではあるが、その逆ではないからだ。

そのIBMがステーブルコインの開発に着手したというから大騒ぎである。「利用者は現金やクレジットカード、デビットカードなどより安くて、早くて、安全な決済手段を手に入れることになる」と述べており、ステーブルコインが決済手段としてクレジットカードに取って代わる未来図を描いていることがわかる。

関連:世界大手IT企業IBMのブロックチェーン技術は仮想通貨市場に変革をもたらすのか?

ゴールドマンとIBM、モバイル決済での覇権を巡り頂上対決か?

ステーブルコインは決済手段としてこれまでにない革新的なサービスとなることが期待されているわけだが、決戦の場はモバイル決済となりそうだ。

日本ではまだモバイル決済の普及はさっぱりだが、米国や中国ではモバイル決済が急速に普及しており、世界的な流れとなっている。さらに、ブロックチェーン・スマホは既に販売が始まっており、ブロックチェーンが実装されたスマホが普及するのも時間の問題となっている。

ゴールドマン傘下のサークルがUSDCの開発を急ぐのはブロクッチェーン・スマホの普及と連動するためでもあろう。モバイル決済大手であるサークルがステーブルコインをいち早く手に入れ、スマホ決済にUSDCを導入することで得られる先行メリットは計り知れないといえる。

とはいえ、IBMのステーブルコイン参戦はブロックチェーン・スマホを利用したモバイル決済でゴールドマンの独走を許さないことを示唆している。

IBMといえば人工知能(Artificial Intelligence)「ワトソン」で有名だが、IBMはAIを拡張知能(Augmented Intelligence)と定義しており、人工知能とは区別している。同様にステーブルコインをデジタル通貨(Digital Currency)と位置づけて既存の仮想通貨(Cryptocurrency)と区別し、独自路線で開発を進めている。

IBMは金融に限らず、流通から小売、製造業などありとあらゆる産業で利用されている既存のデータベースをブロックチェーンに置き換える作業に邁進しており、このブロックチェーンで管理されたモノやサービスの決済をデジタル通貨で効率的に実施することを目指している。したがって、IBMのデジタル通貨は企業向けが念頭にあるといえる。

とはいえ、ステーブルコインは海外送金でも大きなメリットを発揮することから、実装されれば個人からも高い支持が得られることは間違いないだろう。クレジットカードよりも安価で安全に、しかも素早く送金できるのであればなおさらである。

こうして考えると、ステーブルコインの開発は時代からの要請といっても過言ではなくなりつつあり、巨額の資金調達にうかがえる開発競争は戦国時代さながらの覇権争いの様相を呈しているとみることも出来よう。こうした中、金融業界の盟主ゴールドマンとブロックチェーン業界の覇王IBMとの熱い戦いが静かに始まっているもようだ。

参考:REUTERS(2)

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