【後編】ユーティリティトークンの価格形成 ―クラウドセールVSダフ屋―

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ユーティリティトークンの価格形成 ―クラウドセールVSダフ屋―

以前、マネタリーコインの代表として、ビットコイン(BTC)を通貨として扱った場合の矛盾をインフレという通貨の性質含めお話しさせていただきました。

今回は、ユーティリティトークンの場合のお話をさせていただきます。

ユーティリティトークンとは?

ICOの勢いはいまだに衰えません。そして、そのほとんどがこのユーティリティトークンに分類されます。ユーティリティトークンとはいたってシンプルです。そのトークンで特定のサービスを受けることができます。例えば、1コインでポケットWi-Fiの10GBの通信が利用できるみたいなものです。

関連:ICOに関しての仮想通貨基礎知識:トークンの種類

今回は、皆さんも気になっているであろうトークンの価格について議論を絞ってお話したいと思います。マイニングの可否などは、あまり踏み込まないようにしたいと思います。それは、私自身がマイニングを議論する上で十分な考えを持ち合わせていないからです。

実際、ほとんどのICOされているユーティリティトークンを見ても、マイニングが可能なトークンはあまり見受けられません。また、マイニング可能としているものはそもそも、ストラクチャー(構造)が破綻しており、そのマイニングが機能するかどうか相当怪しいと感じるものが多いです。(もちろんマイニング可能なトークンでもまともなものはあると思います。)

ブロックチェーンという技術は、改竄不可能なデータ記録の技術的として利用する場合と、マイニングを利用したインセンティブ設計をする場合があり、後者はそのチェーンに参加する関係者の利害関係の調整が必要になり難易度が一気に上がると思っています。マイニングはしないのでICOの段階でトークンの総量は決定しているという前提です。以下、お付き合い願います。

海外旅行の時のネットワーク使用料をトークンで払う!

こんなICOを見かけました。宣伝のつもりもありませんのでリンクは貼りません。むしろ技術的にどうやるのだろうと、不安に感じてしまうくらいですが、題材としてわかりやすいなと思った程度です。

以下のような状況を考えてください。あなたが、月々20GBの携帯のデータパックを契約しているとします。しかし、毎月19GBほどしか使っていません。

一方で、訪日観光客が数日の滞在で、検索、地図、簡易なメッセンジャー利用のために、データ通信を使用したい人はいっぱいいるでしょう。そこで、ICOとして、そのデータ容量購入のためのユーティリティトークンを発行したとします。通称データトークンとしましょう。

さて、そのデータトークンの価格を考えましょう。このような議論において、前回も持ち出した以下の式を用いる議論を見かけます。

M = PQ/V

V = velocity of money (お金の使用頻度)
PQ = Nominal GDP, which measures the goods and services purchased (GDP)
M = total, average amount of money in circulation in the economy(お金の流通量)

その議論はこんな感じです。

前提:日本人が海外旅行で使うWi-Fiの利用料をトークンで払う。

空港でもよく見かけるレンタルWi-Fiが競合になりますね。例えば、上場されている株式会社ビジョン様(グローバルWi-Fiブランド)の市場をどれくらい侵食できるか考えましょう。

売り上げが直近の年度で、160億円ほどですね。では、新しいICOの技術があまりにも革新的で、その市場を全て侵食したとしましょう。

上記の式では「PQ = 160億円」となります。

ここでちょっと乱暴ですが、1年間(365日)で、多めに4回行くとして「V = 4」としましょう。

M = PQ/V = 160億円/4回 = 40億円

このMの値が、ユーティリティトークンの合計価値と考えましょうというのです。例えば、ユーティリティトークンの発行枚数が1000万枚であれば、1枚あたりのトークンの価値は、400円ということになりますね。そのユーティリティトークンが100円で売り出されていたら、400円まで上がるかもしれない! ということのようです。

正直、この例えはかなり乱暴ですし、批判するとキリがないと思っています。そして、皆さんが聞きたいのはそのような批判でなく、ではどのように考えたらいいのかということだと思います。上記は一旦全て忘れましょう。そこに答えはないと思っています。

もっと単純なのは、あなたが「そのトークンを使うかどうかという視点」です。先ほどのデータトークンがグローバルWi-Fiと競合として、あなたがハワイに行く場合にどちらを使いますか?グローバルWi-Fiを使うとハワイで1日700円かかるとして、データトークン1個で1日過ごせるとします。おそらくは、データトークンがきちんと使用される状況になれば、1個700円近くで取引はされると思います。逆に言えば、700円以上になることはまずありません。

しかし、このデータトークン自体は、まだ開始されていないサービスで、サービスが開始されないリスクすらあります。このデータトークンがICOで300円で売り出されたら、果たして買いでしょうか? そのリスクをどのように考えたらいいのでしょうか?

内部収益率から考えるトークンの価値

いきなりまた変な式が出てきました。不動産のプロジェクトなど、内部収益率ということで毎年の収支を計算して、プロジェクトを評価する場合があります。

内部収益率

この式で、以下のように定義します。

C0 = -ICOトークン価格
C1 ,…,Cn-1 = 0
Cn = 売却予定価格
n = 売却予定時期(n年後)

C0がマイナスなのは、お金を自分が払うためです。(深く考えないでください)値を入れて見ましょう。

値の式

と変換できますね。

nは年数なので、n=1,2,3,4,5 として、rを求めてみましょう。

利回りの計算

何をやっているのか? rは単に利回りの計算ですね。300円で買ったものが700円で5年後売れたら、利回り18%(0.18)ということです。それが1年後であれば、なんと利回りは、133%ということですね。

ということは、何年後に700円にくらいで売れるか? というnの計算が大変重要になります。もちろんサービスが開始されなければ、トークンは使用されませんので、ロードマップのサービス開始時期が大変重要になります。

トークンの発行量

次に、トークンの発行量です。データトークン1個を300円で、1000万枚発行し、30億円調達したとします。

開始したサービスがグローバルWi-Fiと全く同様の機能であれば、人々はトークンを買う可能性が高いです。マーケット規模もグローバルWi-Fiだけで160億円あるので、30億円分のトークンにもある程度買いが集まるでしょう。また、マーケットシェアも、グローバルWi-Fiの2割程度です。早い段階でトークンの価格が700に到達しなくても、トークンを売却する人はいると思いますが、それほど時間がかからず、700付近にはなると思います。よって、nも1年や2年後と想定してもそれほど悪くないと思います。

しかし、技術が大変開発費のかかるもので、データトークン1個を300円で1億枚発行し、300億円調達した場合はかなり状況が変わります。グローバルWi-Fiの売り上げの2年分のです。たとえ、価格が安いとしても、使用する人の絶対数がトークンの量に追い付いていません。

上記の想定同様で侵食できるマーケットシェアがグローバルWi-Fiの2割程度とすると、300億円分のトークンが使用されるまで相当な年数がかかります。

n=10, r=0.088

10年かかりそうな場合は、なんと利回りは8%まで落ちてしまいます。

では、もう少し細部を見ましょう。10年の間に世の中は変わる、そもそもそのサービス自体が存在するかもわかりません。10年後には売値が700円でなく、価値自体が無くなっています。特に、ICOするようなトピックですので、特にTech系サービスは長くて2年(n=2)がいいところではないでしょうか。

では、再度、n=2として式を眺めましょう。

n=2 式

C0 = ICOトークン価格
Cn = 売却予定価格

Cnは上記でみたように、競合他社がいるので、ある程度想定できます。となるとC0のみが変更可能になります。ICOトークン価格を下げれば下げるとほど魅力的な利回りが達成できます。

C0 = ICOトークン価格= 100
Cn = 将来売却予定価格 = 700
の場合は、n=2でなんと利回りが164%にもなります。

しかし、ここで落とし穴があります。先ほどはトークン1個を300円で1億枚発行し300億円調達した場合でしたが、トークン1個を100円で300億円調達すると3億枚の発行になります。トークンの価格が安いので、使用される頻度も先ほどの想定より早く、純粋に1億枚の3倍の時間がかかることはないと思いますが、どう考えてもn=2がそれほどの量が使用されることは不可能です。

さらに悲劇的なのは、グローバルWi-Fiが早々に対策として、500円に値下げした場合です。
利回りが急激に落ちます。

そうやって、数字をいじってみていただくと、ある程度感覚的にもわかってくるのではないでしょうか?それぞれ特徴をまとめると、

  • 回収は長くても2年
  • ICOトークン価格を下げることで魅力的な投資に見せているようで、実は回収期間が長引き利回り的にはあまり変わらない
  • 売却予定価格の変動(特に下落)が致命的な結果をもたらす。

もう一度、この式をみてもらいます。

n = 売却予定時期

C0 = ICOトークン価格
Cn = 売却予定価格
n = 売却予定時期(n年後)

この式から考える場合、どのようなビジネスを想定したらいいのでしょうか?

ダフ屋から考えるICO

ジャニーズのコンサートチケットダフ屋をイメージしてください。
ダフ屋の特徴は、上記の数式から考えると以下です。

  • チケット販売価格が一定 > C0 = 一定
  • ほとんどの場合、コンサート開催は1年以内 > n = 1
  • ネットオークションで高値で売れる > Cnの価格下落リスクがない
  • 熱狂的なファンがいるので、ネットオークションで買い手は必ずいる > 量を増やしても必ず売却可能

このような状況では、損をする可能性は限りなく0に近いです。ダフ屋のビジネスモデルの賛否を議論する場ではないのでその論理面だとは、突っ込みませんが成功しているビジネスモデルということは確かです。

ほとんどのICOで見受けられるのは、極端にC0 = ICOトークン価格を下げたものです。確かに、そのような見せ方をすることによって、一見魅力的な投資に見えます。

しかし、ダフ屋の例でわかるように、大事な変数は、C0 = ICOトークン価格よりも以下の二つだとわかるのではないでしょうか。

Cn = 売却予定価格
n = 売却予定時期(n年後)

そして、特にnは発行するトークンの数によって変わるということです。

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