コインチェックでのネム(NEM,XEM)ハッキング事件を契機に、匿名性の高い暗号通貨の規制に対する関心が高まっています。そこで本稿では、そのような暗号通貨の一つであるDASH(ダッシュ)のマスターノードオーナーで、「DashJapan.com」を運営されている、とみ三(Samurai33)氏[Twitter:@samurai3311]にインタビューを試み、暗号通貨の「匿名性」の重要性について、詳しくお話を伺いました。
目次
- 1 Q.暗号通貨の文脈において「匿名性」が必要な理由は?
- 2 Q.DASH,Monero,Z-cashなどの匿名通貨を、国家が規制するべきだという意見に対して反対される理由は?
- 3 Q.匿名通貨は、違法なマネーロンダリングや、薬物売買に用いられているという批判がありますが…
- 4 Q.犯罪者に暗号通貨が悪用されるデメリットと一般人にとってのメリットの方が大きいという事でしょうか
- 5 Q.DASH(ダッシュ)の特徴と、他の匿名通貨との違いを教えてください
- 6 Q.なぜブロックチェーンが公開されていることが重要なのでしょうか
- 7 Q.DASHを送金すると、自動的にアドレスが秘匿されるのでしょうか?
- 8 Q.CoinJoinとプライベートセンドの違いを教えてください
Q.暗号通貨の文脈において「匿名性」が必要な理由は?
-A.デジタル化が進むにつれて、社会は中央国家に情報が集中し、個人の力が弱まるという構造的な問題を抱えています。この問題に対し、暗号技術を使い、個人の力を守ろうというムーブメントが起こり、これは一般的にサイファーパンク運動と呼ばれます。
このムーブメントの中からビットコイン(BTC)が生まれました。ビットコイン誕生の背景にあるのは人類愛であり、国家などの巨大な力から個人を守り、個人をエンパワーメントする事を目的の一つにしています。これを実現するためには個人の「匿名性」を守ることが非常に重要なのです。良く誤解されますが、決して犯罪が目的なのではありません。
Q.DASH,Monero,Z-cashなどの匿名通貨を、国家が規制するべきだという意見に対して反対される理由は?
-A.匿名性に関わる技術開発は、日本国憲法第21条第2項で謳われている「検閲の禁止」と「通信の秘密」という理想を具現するものだと私は考えます。また、ビットコイン(BTC)・ビットコインキャッシュ(BCH)・ライトコイン(LTC)のいずれも中心的な開発者が匿名性を高める意向を示しています。
この問題は現在匿名性が高い暗号通貨だけではなく、暗号通貨全般に渡る、非常に大事な論点です。国家による規制を許すと、この開発体制に支障が出る恐れがあります。そのような事態は避けるべきです。
Q.匿名通貨は、違法なマネーロンダリングや、薬物売買に用いられているという批判がありますが…
-A.犯罪者は、便利な道具がそこにあれば、犯罪に用います。つまり道具は問題ではないのです。例えば包丁での殺傷事件が起こるとします。しかし包丁に非はありません。悪いのはあくまで犯罪者です。
Q.犯罪者に暗号通貨が悪用されるデメリットと一般人にとってのメリットの方が大きいという事でしょうか
-A.まさにその通りです。暴走した国家から個人を守るという大きな話だけでなく、例えば大口のビットコイン(BTC)口座を有するという秘密が犯罪者に漏れてしまい、犯罪の対象として狙われる等のリスクを減らす必要があります。
また医療機関に通院してビットコインで医療費を支払った場合に、悪意ある第3者によって口座が特定されてしまい、「何らかの病気で通院している」という事実そのものが明らかになるリスクもあります。このような個人情報も、堅く保護されなければなりません。
Q.DASH(ダッシュ)の特徴と、他の匿名通貨との違いを教えてください
-A.暗号通貨の取引履歴を匿名化するアプローチはいくつかあります。DASHの匿名化機能は、他人の取引記録と混ぜ合わせ、最終的なアウトプットを見ても、誰から誰に送金されたのかは分からないという仕組みです。
マスターノードと呼ばれる一部の特殊なノードが同じ金額のコインを集めて複数回ミックスします。この仕組みの元になっているのはCoinJoinという技術で、元々はビットコイン(BTC)の匿名性を向上させるために開発された背景があります。
また他の匿名性の高い暗号通貨と異なる点として、DASHはブロックチェーンをすべて公開しているという特徴があり、私はその点を評価しています。ブロックチェーンを公開しながら高い匿名性を保つには、CoinJoinの仕組みが最適です。
Q.なぜブロックチェーンが公開されていることが重要なのでしょうか
-A.ブロックチェーンの価値は透明性にあります。ビットコイン(BTC)と同じように公開されていることによって取引の公平性が担保されること、そして犯罪への利用の抑止力になることが上げられます。
例えば、古くから価値の貯蔵・交換手段として使われて来た金地金や金貨等の貴金属は、取引履歴が追跡できないため、密輸やマネーロンダリング、脱税などの犯罪に使われているものと推測されます。取引記録が追跡出来る公開型のブロックチェーンは、このような問題を解決します。
Q.DASHを送金すると、自動的にアドレスが秘匿されるのでしょうか?
-A.DASH(ダッシュ)の匿名化機能であるプライベートセンドは、自動では適用されません。有効にするためには、DASHコアウォレット(マスターノードではないフルノード)をPCにインストールする必要があります。
ただし、フルノードであるためDASHの全てのブロックチェーンを持つ事になり、記事掲載時点では、少なくともご自身のPCに5.5GBの空き容量が必要です。プライベートセンドはコインのミキシングなので、送金時に選択して使用するよりも、事前に使用することが主流になっています。
Q.CoinJoinとプライベートセンドの違いを教えてください
-A.前述のCoinJoinは、ビットコイン(BTC)のコア開発者であるGregory Maxwell氏によって、ビットコインの匿名化機能として開発されましたが、ビットコインではCoinJoinを分散型かつトラストレスな状態で取り込むことができません。
DASH(ダッシュ)は分散化されたマスターノードがネットワークの第2層を形成することで、その問題を解決しています。また、この第2層を創ったことでDASHは取引の即時承認機能、ガバナンス機能等を実現しています。