ソラナ(Solana)DeFiエコシステムの今とこれから

2020年はDeFi(分散型金融)が大きく盛り上げを見せた年と言え、スマートコントラクトにロックされた資産は10月時点で総額100億ドルを越えています。2020年7月1日時点でおよそ19億ドルであったことを考えるとその成長度合いの大きさが分かります。またこれらはイーサリアムブロックチェーン単体の成長であり、いかに多くの開発チーム、コミュニティがこの短期間にイーサリアム上で活発に活動していたかを物語っています。また高いガス代(取引コスト)やネットワークの混雑、取引の失敗、大きなスリッページの発生など、一年前のDeFi市場のそれとは随分と様相が変わったように見受けられます。

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参照:DEFI PULSE

イーサリアム上のDeFiの盛り上がり

当初は金融包摂、マイクロペイメントの実現といったように、インターネットに接続できる人であれば誰もが利用できる新たな金融システムとして期待されていたところがあります。しかし、現状は取引コスト高騰により、一定以上の資産を運用する人以外は気軽に利用できるようなものではありません。またNFTを活用したイーサリアム上のゲームアプリケーションなどは今回のガス代高騰によりNFT売買、発行コストが高まったことで、顧客体験が損なわれました。

NFTとDeFiの融合は従来より期待されていたことではありますが、NFTの売買や発行といった点ではマイナスに働くこともしばしばで、その実現はEthereum2.0やL2技術の進展を待つ必要があるでしょう。このようにイーサリアム上のDeFiの盛り上がりは、今後の期待をもたらすと同時に、その課題も浮き彫りにしています。

そのような中で、イーサリアム以外のブロックチェーンネットワークはどのような方向性で動いているのでしょうか。かつてはイーサリアムキラーと呼ばれるブロックチェーンプロジェクトが話題に上がっていましたが、最近ではそういった言葉は耳にしなくなってきました。むしろ最近では、そのようなうたい文句と共に語られていたプロジェクトは、イーサリアムフレンドリーな関係性を構築しようとする傾向が強まってきたように感じます。

イーサリアムフレンドリーを目指すプロジェクトの増加

なぜイーサリアムフレンドリーを目指すプロジェクトが増えてきたのでしょうか。そこにはマネーレゴやコンポーザビリティという言葉で表されるDeFiの性質が関係します。DeFiと既存金融の違いは、その分散性や透明性にあるということもありますが、それと同時にコンポーザビリティ(構成可能性)の重要性は見過ごせません。

許可なしに自由に金融機能を利用できると同時に、許可なしに既存の金融機能を活用して新たな金融サービスを自由に再構築できるという点は、これまでの厳しい規制下に置かれた既存金融にはなかった概念です。このようなDeFiの性質は金融機能の複雑なネットワークを世界中で同時多発的に構築することで肥大化し、そのネットワーク効果により利便性向上や新たな顧客体験を生み出しています。処理速度や取引コストの面で不満があっても、イーサリアム上で新たなDeFiプロダクトが構築され利用される理由は、すでに多くの機能がイーサリアム上で開発されており、それらをユーザーが利用しているからといっても過言ではありません。

すでに多くのユーザーに利用されているプロダクトがあり、エコシステムが充実した場所だからこそ、長期的に利用される可能性が高い場でプロダクトを構築しようとする開発チームの行動には合理性があります。このような雪だるま式に大きくなっていく開発サイクルが成立しているため、イーサリアム上のDeFiネットワークは拡張し続けられる可能性が高いです。

一方でイーサリアム以外のブロックチェーン上で新たにDeFiプロダクトを開発しても、今後それに追従するプロダクトが現れてくるかどうかは分かりません。そのため、明らかにイーサリアムよりも優秀な基盤であるにも関わらず、サードパーティのアプリケーションを開発する開発チームが集められず、ブートストラップさせることが困難になっているというのが現状と言えるでしょう。このような背景から、新興ブロックチェーンはイーサリアムキラーではなく、いかにイーサリアムフレンドリーな関係を築き、イーサリアムが不得意とする領域を補うようにして共存する戦略に注力し始めています。

ソラナDeFiエコシステムの今とこれから

ソラナのイベント

イーサリアムフレンドリーなブロックチェーンはいくつかありますが、そのうちの一つがソラナです。またソラナは2020年にローンチしたばかりの新興ブロックチェーンではありますが、当初より高速低コストなDeFiエコシステム構築をうたっており、これまでにFTXが背後につくSerumプロジェクト(分散型取引所)の稼働開始や、ステーブルコインUSDT(テザー)、分散型ステーブルコインTerra、分散型オラクルChainlinkとの提携発表、それ以外にも9月以降さまざまなイベントを発表(上図表参照)し、着実に独自DeFiエコシステムを構築するための下準備を整えてきています。

ソラナでDeFiエコシステムを構築することの意義とはなんでしょうか。FTXの最高経営責任者(CEO)であるサム・バンクマンフリード(Sam Bankman-Fried)氏がSerumプロジェクトの基盤にソラナを選択した理由にその高速性と取引コストの安さを挙げていました。この発言にあるように、ソラナの魅力はその高速性と低コストな取引をオンチェーンで実現することにあり、またそのような性質を活かし従来のインターネットと同じような快適さをもつ分散型金融アプリケーションを実現させることにあると言えるでしょう。一方で、ソラナが抱える課題は何でしょうか。この点は前述したようにいかに開発チームを呼び寄せ、独自DeFiエコシステムをブートストラップさせて、拡張していけるかでしょう。

今後のソラナの展開は予測できないことが多いのですが、現時点での動きを見る限り、クロスチェーン技術を活かしたイーサリアムフレンドリーな関係性を強化していくのではないかと予想されます。すでにSerumプロジェクト上ではERC20トークンとSPLトークンのクロスチェーンを実現しており、イーサリアムとソラナ間で暗号資産を移動させるということを実現しています。Serumはこの他、オーダーブックの概念をDEXに適用させ、指値注文可能にしたことや、新興ブロックチェーンでありがちな流動性の問題も自ら提供することで初期段階から顧客体験を損ねないような環境を整えていたことが評価されます。

しかし、現状ソラナの高速低コストの恩恵を受けられるDeFiプロジェクトはSerum DEXが主であり、それ以外の用途はまだ少ないのが現状です。今後期待されるのは、ソラナ上の金融機能の充実です。この点について、有力視されるのがRamp DeFiプロジェクトやWormholeプロジェクトです。

RampDeFiはソラナとイーサリアム間のクロスチェーン実現を目指すものですが、同時にレンディング機能やステーブルコイン発行、それを促すためのインセンティブ機能を内包する多機能な分散型金融プロジェクトです。本プロジェクトはこれだけで独立して機能するようなものと言えるでしょう。一方のWormholeはRampDeFi同様にクロスチェーンを実現するものです。しかし、RampDeFiがそれ自体である程度完結するような機能を有しているのに対して、Wormholeはあくまでも「SPLトークン⇄ERC20トークン」をブリッジするだけのシンプルなツールです。そして、ツールであるが故に柔軟性があり、イーサリアム上の多くのDeFiプロジェクトがWormholeを介して関与することで、ソラナ上のDeFiエコシステムの発展に寄与する可能性を期待できるでしょう。

ソラナ、イーサリアムのクロスチェーンを促進するハッカソン開催

ソラナハッカソン
出典:Solana

Wormholeの存在はソラナDeFiエコシステムをブートストラップさせるきっかけになる可能性はありますが、その存在の認知と実際に開発チームが活用し始めなければ、ユーザーが集まるようなエコシステムにまで拡張できません。ソラナはWormhole発表時に、Wormholeを活用したハッカソンの開催(10月28日〜11月14日)を発表しています。

審査員にはカーブ(Curve)やコンパウンド(Compound)、バランサー(Balancer)などイーサリアム上の主要DeFiプロトコルを開発するメンバーが含まれています。このようなハッカソンをきっかけにして、プロダクトが試作され実際に構築、稼働し始めるということは十分にあり得ることです。今回のハッカソンをきっかけに、ソラナ上のDeFiエコシステムが発達していくのではないかと期待されます。

ソラナのような高速低コストなブロックチェーン上に充実したDeFiエコシステムが構築されることはDeFi利用者からしても喜ばしいことです。それは処理速度のストレスや取引コストの課題を解消してくれるものでもあり、同時にその障害ゆえに実現困難であったマイクロペイメントやNFTとDeFiの融合、決済のストリーミング、金利の寄付等の少額融資などのより多様な金融サービスの可能性を予感させるものと言えるでしょう。

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