ブロックチェーンのオンライン学習サービス「PoL(ポル)」を運営する、株式会社techtecの田上です。本記事から数回に分けて、ブロックチェーンの活用が進んでいる「学位の詐称」問題について紹介していきます。
この分野では日本からも経済産業省の取り組みなどが出始め、ここ数年でますます活発な動きが見られるようになることが予想されます。
デジタル化が進み学位の詐称が頻出
インターネットが社会に浸透したことでボーダレス化が進み、国際的な活動を重要視する学生が増加してきました。その中で、海外に留学した学生の履修履歴や、研究室での研究データに関する不正が相次いで発生し、国際的な課題にまで発展しています。
スタティスティックス・ブレイン・リサーチ・インスティチューション(Statistic Brain Research Institute)の調査によると、学生や社会人が、企業に就職または転職する際に提出する履歴書の、半数以上が偽造されているとのことです。また、全体の4分の3以上が、偽造とまではいかないものの、語弊を招くような書き方となっているといいます。
これは、捕捉が困難なデジタル化の負の側面であると同時に、分散性を失った組織のガバナンスが問われる問題であるといえます。なぜなら、従来のような中央集権的な組織の管理下においては、恣意性を含んだ人為的な行動を排除することができず、またその可能性をゼロにすることはできないからです。
このような状態においては、学位に限らずあらゆるものの信憑性を疑う必要が出てきます。すると、不要な確認コストが発生したり、フォールトアボイダンスに該当する、こちらも不要なシステム設計や機能が発生したりします。
また、特定の組織の意思決定に委ねられたシステムでは汎用性を持たせることができず、ビッグデータ時代のスケーリングに対応することができなくなります。この問題に対して、世界各国でブロックチェーンを活用した取り組みが登場し、日本からも経済産業省より調査レポートが公表されました。
日本の取り組み
日本の経済産業省(METI)は、「平成 30 年度産業技術調査事業 (国内外の人材流動化促進や研究成果の信頼性確保等に 向けた大学・研究機関へのブロックチェーン技術の適用 及びその標準獲得に関する調査)」と題した調査レポートを公表しました。
※本レポートの一部を株式会社techtecが担当しております
調査レポート内では、学位の詐称による弊害として、企業の人事部で発生している確認コストについて触れています。特に、近年のベンチャー企業の情勢については、ライフサイクルの短い企業における就労が一般化するにつれ、学位や勤務評定の正確な記録や証明の仕組みが今後さらに重要になると言及しています。
これに対して、学校への入学・卒業およびeーLearningなどの修了履歴、さらには入社・退社などの事実に基づく客観的なデータを、ブロックチェーンで管理する適用案がが提出されています。
海外の取り組み
海外における学位の詐称問題への取り組みは、行政だけでなく学校法人や民間企業によるものが活発化しています。
例えば、アメリカの「Blockcerts」や「uPort」、イギリスの「Gradbase」などがあげられます。また、キプロスの「ニコシア大学」やイギリスの「バーミンガム大学」なども積極的な取り組みを見せています。アジアからも、ネム(NEM)を活用したマレーシアの「e-scroll」などが代表例といえるでしょう。
これらの取り組みは、いずれもブロックチェーンの特徴である「耐改ざん性」や「検証プロセスの簡易性」、「管理者の分散性」を活用したものとなっています。例えば、何らかの理由で大学が廃校になった場合でも、ブロックチェーン上に記録されている学位は、半永久的にその価値を維持することが可能です。
また、これまで企業の人事部などが電話やメールで1件ずつ問い合わせていた学歴や職歴の確認作業も、ブロックチェーンに接続されたWebサイトを通じて、簡易的に行うことができるようになります。
ブロックチェーンを実際に活用する際の課題
学位の詐称問題に対する活用に限らず、一見すぐにでも導入した方がいいと思われがちなブロックチェーンですが、実際に活用する場合には多くの課題を解消する必要があります。
例えば、ブロックチェーンが万が一改ざんされた場合の学位の保護や、利用者の誰もが秘密鍵を管理できるようにするためのユーザーフレンドリーな設計、ブロックチェーンを利用したくない人に対するオプトアウトのような仕組み、などがあげられます。
また、現状はコンソーシアム型のブロックチェーンが採用されるケースが多くなっており、完全な分散性が担保できているかという点に関しても、まだまだ十分な状態ではないといえるでしょう。
これらの課題に対しては、各プロジェクトによって多様なアプローチが出てきているため、上述の海外の取り組みを参考に、次回以降で一つずつ解説していきたいと思います。