
目次
冒頭の直接回答
米国のステーブルコイン市場は2025年にGENIUS法が成立し、本格的な規制整備が完了しました。現在市場規模は約2,700億ドルで、2028年までに1.2兆ドル規模への成長が予測されています。同法により発行者への厳格な準備資産保有義務と透明性確保が義務付けられ、市場の信頼性向上と制度化が一段と進展しています。
要点
- GENIUS法成立により米国初の包括的ステーブルコイン規制が完了
- 市場規模は2028年までに1.2兆ドルに拡大との予測
- USDCとUSDTが市場の約85%を占める二極化構造
- 大手金融機関や決済企業の参入が相次ぐ
- 米国債市場の重要な買い手として位置づけ
1. 米国ステーブルコイン規制の革命的変化:GENIUS法の成立と影響
2025年7月18日、米国でステーブルコイン規制を目的とした「GENIUS法」(Guiding and Establishing National Innovation for U.S. Stablecoins Act)が成立しました。この法律は、ドナルド・トランプ大統領の署名により発効し、米国初の包括的なステーブルコイン規制枠組みとなっています。
規制の主要内容
GENIUS法では、以下の厳格な要件が設定されています:
発行者の資格要件
- 米国当局の認可を受けた事業者のみがステーブルコインを発行可能
- 発行額100億ドル以下は州の規制、それ以上は連邦政府の監督下
- 銀行または登録された非銀行発行者に限定
準備資産の義務
- 発行されるステーブルコインと同額の米ドル現金または短期米国債の保有義務
- 準備資産の構成を毎月開示
- 第三者による監査の実施
透明性と消費者保護
- ステーブルコインによる利回り提供の禁止
- 発行者破綻時の顧客保護メカニズム
- 制裁対応やAML/CFT要件への準拠
この規制整備により、「ステーブルコインとは何か?誰が管轄しているのか?」という長年の疑問に明確な答えが提供され、機関投資家の参入障壁が大幅に下がりました。NRI Research
トランプ政権のドル覇権戦略
トランプ大統領は署名式典で、「インターネットの誕生以来、金融技術における最大の革命となるかもしれない」と指摘し、「国際金融と暗号資産技術における米国支配を固める大きな一歩」と評価しました。これは、ドル建てステーブルコインを通じた国際決済でのドル利用拡大により、基軸通貨としてのドル地位を維持する戦略的意図を示しています。
2. 市場規模と成長予測:2028年1.2兆ドルへの道筋
現在の市場状況
2025年現在、米国のステーブルコイン市場規模は約2,700億ドルに達しています。Coinbaseの予測によると、この市場は2028年までに1.2兆ドル規模まで成長する見通しです。
成長要因の分析
規制明確化による機関投資家参入 GENIUS法成立により、年金基金、資産運用会社、企業財務部門などの機関投資家が安心してステーブルコインを採用できる環境が整いました。
決済インフラとしての採用拡大
- 国際決済の効率化(24時間365日、低コスト)
- 既存のSWIFTシステムに対する代替手段
- 越境Eコマースでの利用増加
米国債市場への影響 Coinbaseの試算では、1.2兆ドル規模の市場達成には週あたり53億ドルの米国短期国債供給が必要となります。これは3カ月物国債利回りを4.5ベーシスポイント押し下げる可能性があるものの、大幅な金利変動は不要とされています。
市場拡大のメカニズム
年度 | 予測市場規模 | 主要成長ドライバー |
---|---|---|
2025 | 2,700億ドル | GENIUS法成立、規制明確化 |
2026 | 5,000億ドル | 機関投資家本格参入 |
2027 | 8,000億ドル | 決済インフラ統合加速 |
2028 | 1.2兆ドル | グローバル採用の完成 |
3. 主要プレイヤー分析:USDCとUSDTの競合構造
市場シェアの現状
現在の米国ステーブルコイン市場は、USDT(Tether)とUSDC(USD Coin)による二極化構造となっています:
USDT(Tether)
- 市場シェア:約62%
- 時価総額:約1,400億ドル
- 特徴:高い流動性、幅広い取引所対応
USDC(Circle)
- 市場シェア:約25%
- 時価総額:約560億ドル
- 特徴:規制準拠、透明性の高い準備資産管理
SBI VCトレードのデータによると、2025年に入ってからUSDCの割合が増加傾向にあり、規制適合型ステーブルコインへの需要シフトが見られます。
Circle社の戦略的展開
IPO成功と市場評価 2025年6月5日、Circle社のIPOは大成功を収め、株価は公募価格31ドルから240ドル以上に急騰しました。これは675%の上昇を記録し、約11億ドルを調達しています。CoinPost
技術的優位性:CCTP Circleが開発するCross-Chain Transfer Protocol(CCTP)により、19のブロックチェーン間でのネイティブUSDC転送が可能となり、相互運用性で競合優位を確立しています。
Tether社の対応戦略
Tether社は2025年第2四半期に49億ドルの純利益を計上し、米国債の重要な買い手として存在感を示しています。同社CEOは「USDTが米国の最良の友」と発言し、米国市場での地位維持に注力しています。
4. 機関投資家参入の加速:PayPal、Fiserv、銀行セクター
Fiserv-PayPal-Circle連携の革新性
世界的決済大手Fiservは、2025年末までに独自ステーブルコイン「FIUSD」をローンチすると発表しました。この動きの核心は以下の通りです:
統合決済エコシステムの構築
- Fiservのネットワーク:約10,000金融機関、600万加盟店
- PayPalのPYUSDとの相互運用性確保
- CircleのUSDCとの技術的統合
戦略的意義 この連携により、従来の決済インフラとステーブルコインの本格的な融合が実現し、B2Bインフラソリューションとしての地位を確立しています。
大手銀行の参入動向
JPモルガンの取り組み JPMorganは既にJPMコインで企業間決済を手がけており、ステーブルコイン分野での先行投資を継続しています。
その他金融機関
- ウォルマート:独自ステーブルコイン発行を準備
- アマゾン:決済効率化を目的とした検討段階
- 各州レベル銀行:小規模ステーブルコイン発行の計画
機関投資家参入の効果
参入セクター | 主な動機 | 期待される効果 |
---|---|---|
決済会社 | 手数料削減、効率化 | 決済コスト20-30%削減 |
銀行 | 新収益源確保 | クロスボーダー決済の競争力向上 |
小売大手 | 顧客体験向上 | 決済速度の飛躍的改善 |
資産運用会社 | ポートフォリオ多様化 | リスク調整後リターン改善 |
5. 技術革新とインフラ整備:CCTPとクロスチェーン決済
CCTPの革命的インパクト
Circle社が開発するCross-Chain Transfer Protocol(CCTP)は、ステーブルコイン決済インフラの革新をもたらしています。
技術的メカニズム
- 送金元チェーンでUSDCをバーン(焼却)
- 送金先チェーンで同額USDCをミント(発行)
- 準備資産の整合性を常時保持
対応ネットワーク
- Ethereum、Solana、Base、Arbitrum等9チェーン
- 今後Aptos、Unichainへの展開予定
- CCTP v2では数秒以内の低遅延実現
Programmable Walletの企業採用
API統合による導入簡易化
- セルフカストディ型/カストディ型の柔軟選択
- 決済・資産保管・NFT管理の統合対応
- 従量課金制による導入コスト最適化
エンタープライズ向けソリューション
- Payments API:オンライン決済・自動請求処理
- Payouts API:国際送金・法人間支払いの即時処理
- Accounts API:マルチ通貨・ウォレット統合管理
インフラ整備の経済効果
従来の国際決済(SWIFT)と比較したステーブルコイン決済の優位性:
比較項目 | 従来決済(SWIFT) | ステーブルコイン決済 |
---|---|---|
処理時間 | 1-5営業日 | 数秒-数分 |
営業時間 | 平日のみ | 24時間365日 |
手数料 | 2-5% | 0.1-0.5% |
透明性 | 限定的 | 完全なトレーサビリティ |
6. 国際的な競争激化:各国のステーブルコイン戦略
各国の対応状況
韓国
- 金融委員会(FSC)が10月に包括的規制法案を国会提出予定
- ウォン建てステーブルコインの発行検討
- ドル依存度軽減を目的とした戦略的アプローチ
中国
- 人民元担保ステーブルコインの流通容認を示唆
- 香港等経済特区での限定的展開が有力
- 国際通貨市場でのプレゼンス拡大狙い
EU(欧州連合)
- MiCA規制による厳格な枠組み整備済み
- 米国GENIUS法への対抗としてデジタルユーロ戦略の見直し
- 域内決済の効率化とドル依存軽減が目標
日本
- 改正資金決済法により世界最先端の規制枠組み完成
- JPYC(円建てステーブルコイン)の発行承認
- SBI-Circle提携によるUSDC国内展開推進
グローバル覇権争いの構図
米国のGENIUS法成立により、各国は自国通貨建てステーブルコインの発行を加速させています。これは「デジタル通貨による経済圏構築」を目指す新たな国際競争の開始を意味しています。
米国の戦略
- ドル建てステーブルコインの国際標準化
- 基軸通貨地位の維持・強化
- 金融インフラの輸出による影響力拡大
その他各国の対抗戦略
- 自国通貨建てステーブルコインによる経済主権確保
- 地域経済圏での決済効率化
- ドル依存度軽減による金融政策の独立性向上
比較表:主要ステーブルコイン規制の国際比較
項目 | 米国(GENIUS法) | 日本(改正資金決済法) | EU(MiCA規制) |
---|---|---|---|
施行時期 | 2025年7月 | 2023年6月 | 2024年6月 |
発行者要件 | 銀行または認可事業者 | 銀行・資金移動業者・信託 | 認可EMI・信用機関 |
準備資産 | 米ドル・米国債100% | 現金50%・短期債券50% | ユーロ・EU加盟国債券 |
監督機関 | OCC・州規制当局 | 金融庁 | 各国規制当局・ESMA |
市場規模上限 | 100億ドル(州/連邦) | 制限なし | 50億ユーロ(簡易手続き) |
取引所紹介
米国ステーブルコイン市場の発展に伴い、日本でもステーブルコイン取引への関心が高まっています。以下では、金融庁認可の主要取引所をご紹介いたします。
BitTrade
特徴
- 2024年7月より取引所売買手数料完全無料化を実施
- 全通貨ペア対応の低コスト取引環境
- API取引にも手数料無料を適用
- セキュリティ体制の充実
取扱銘柄 ビットコイン(BTC)、イーサリアム(ETH)、リップル(XRP)、ビットコインキャッシュ(BCH)、ライトコイン(LTC)、モナコイン(MONA)、ステラルーメン(XLM)、ネム(XEM)、ベーシックアテンション(BAT)、オーエムジー(OMG)、クアンタム(QTUM)等30銘柄以上
主要手数料
- 取引所売買手数料:無料
- 入金手数料:無料(銀行振込手数料は顧客負担)
- 出金手数料:330円
- 最小購入額:0.0001BTC相当
セキュリティ対策 コールドウォレット管理、二段階認証、SSL暗号化通信、24時間システム監視
SBIVCトレード
特徴
- SBIグループの信頼性と安定性
- Circle社との戦略的提携によりUSDC取扱い開始
- 手数料体系の透明性
- 初心者から上級者まで対応可能な取引環境
取扱銘柄 ビットコイン(BTC)、イーサリアム(ETH)、リップル(XRP)、ライトコイン(LTC)、ビットコインキャッシュ(BCH)、ポルカドット(DOT)、リンク(LINK)、エイダ(ADA)、ドージ(DOGE)、USDコイン(USDC)等20銘柄
主要手数料
- 取引所手数料:Maker -0.01%、Taker 0.05%
- 入金手数料:無料(銀行振込手数料は顧客負担)
- 出金手数料:50円
- 最小購入額:0.0001BTC
スマートフォンアプリ 「VCTRADE」アプリで外出先からの取引が可能
CoinCheck
特徴
- 国内最大級の取引量と豊富な銘柄数
- Circle社との提携によるステーブルコイン対応準備
- つみたて投資サービス対応
- 使いやすいユーザーインターフェース
取扱銘柄 ビットコイン(BTC)、イーサリアム(ETH)、イーサリアムクラシック(ETC)、リスク(LSK)、リップル(XRP)、ネム(XEM)、ライトコイン(LTC)、ビットコインキャッシュ(BCH)、モナコイン(MONA)、ステラルーメン(XLM)等29銘柄
主要手数料
- 取引所手数料:無料
- 入金手数料:銀行振込無料(振込手数料は顧客負担)
- 出金手数料:407円
- 最小購入額:500円相当
積立サービス 毎月自動で暗号資産を購入する「Coincheckつみたて」サービス
bitbank
特徴
- 高い流動性と狭いスプレッド
- プロトレーダー向け高機能取引ツール
- セキュリティの高さで定評
- リアルタイム入金対応
取扱銘柄 ビットコイン(BTC)、イーサリアム(ETH)、リップル(XRP)、ライトコイン(LTC)、ビットコインキャッシュ(BCH)、モナコイン(MONA)、ステラルーメン(XLM)、クアンタム(QTUM)、ベーシックアテンション(BAT)、オーエムジー(OMG)等37銘柄
主要手数料
- 取引所手数料:Maker -0.02%、Taker 0.12%(銘柄により異なる)
- 入金手数料:無料(銀行振込手数料は顧客負担)
- 出金手数料:550円/770円
- 最小購入額:0.0001BTC
高機能チャート TradingView採用の本格的テクニカル分析環境
GMOコイン
特徴
- GMOインターネットグループの運営による安心感
- ステーブルコイン発行への取り組み(野村HDとの提携)
- 現物・レバレッジ・積立・貸暗号資産の総合サービス
- 手数料の低さで好評
取扱銘柄 ビットコイン(BTC)、イーサリアム(ETH)、ビットコインキャッシュ(BCH)、ライトコイン(LTC)、リップル(XRP)、ネム(XEM)、ステラルーメン(XLM)、ベーシックアテンション(BAT)、オーエムジー(OMG)等26銘柄
主要手数料
- 取引所手数料:Maker -0.01%、Taker 0.05%
- 入金手数料:無料(銀行振込手数料は顧客負担)
- 出金手数料:無料
- 最小購入額:0.0001BTC
総合サービス 現物取引、レバレッジ取引、つみたて暗号資産、貸暗号資産、ステーキング、外国為替FX
BITPOINT
特徴
- 国内唯一取扱い銘柄を多数保有
- トレンドのアルトコイン導入が早い
- 高利率のステーキングサービス
- トランプコインなど話題銘柄への迅速対応
取扱銘柄 ビットコイン(BTC)、イーサリアム(ETH)、ビットコインキャッシュ(BCH)、ライトコイン(LTC)、リップル(XRP)、ベーシックアテンション(BAT)、トロン(TRX)、エイダ(ADA)、ジャスミー(JMY)、ポルカドット(DOT)、チェーンリンク(LINK)、ディープコイン(DEP)等31銘柄
主要手数料
- 取引所手数料:無料
- 入金手数料:無料(銀行振込手数料は顧客負担)
- 出金手数料:330円
- 最小購入額:500円相当
ユニークサービス
- 高利率ステーキングサービス(最大年率20%超の銘柄あり)
- レンディングサービス(最大年率5%)
- 国内唯一銘柄の積極的な取扱い
よくある質問(FAQ)
Q1. GENIUS法成立により、日本の投資家にはどのような影響がありますか?
回答: 米国規制の明確化により、日本でもUSDC等の規制適合ステーブルコインの取扱いが拡大し、より安全な投資環境が整いました。
GENIUS法の成立により、米国発行のステーブルコインの信頼性が大幅に向上しました。これに伴い、SBI VCトレードやCoinCheckなど日本の取引所でもUSDCの取扱いが本格化しています。投資家は従来よりも透明性が高く、規制準拠したステーブルコインにアクセス可能となり、国際分散投資や決済手段としての活用機会が拡大しています。
Q2. ステーブルコイン投資における最大のリスクは何ですか?
回答: 発行体の財務健全性リスク、準備資産の管理リスク、規制変更リスクが主要なリスク要因です。
特に重要なのは発行体リスクで、2023年のSVB(シリコンバレー銀行)破綻時にはUSDCが一時的にペグを外れる事態が発生しました。また、準備資産の運用方針や保管体制も価格安定性に直結するため、投資前に発行体の監査レポートや準備資産の構成を確認することが重要です。GENIUS法により透明性が向上しましたが、完全にリスクが排除されたわけではありません。
Q3. 2028年1.2兆ドル市場予測は現実的ですか?
回答: Coinbaseの予測は規制整備と機関投資家参入を前提としており、現実的な成長シナリオと考えられます。
予測の根拠となる要因として、(1)GENIUS法による規制明確化、(2)PayPal、Fiservなど大手決済企業の参入、(3)国際決済効率化ニーズの高まり、(4)米国債市場との連動性強化があります。週53億ドルの米国債購入が必要との試算も、現在の米国債発行規模(週2,000億ドル超)から見て十分に吸収可能な水準です。ただし、競合技術の出現や規制環境の変化により、成長ペースには変動の可能性があります。
出典:Coinbase Institutional Research
まとめ
米国ステーブルコイン市場は、GENIUS法成立を契機として制度化された成長段階に入りました。2028年までの1.2兆ドル市場実現に向け、規制準拠と技術革新を両立させた企業が競争優位を確立しつつあります。
投資家にとっては、従来の「実験的デジタル資産」から「制度化された金融商品」への転換により、より安全で予測可能な投資環境が提供されています。一方で、国際的な競争激化や技術的イノベーションの加速により、市場構造は今後も大きく変化する可能性があります。
ステーブルコイン投資を検討される際は、発行体の信頼性、規制対応状況、技術的な相互運用性を総合的に評価し、分散投資によるリスク管理を心がけることが重要です。