スマートフォンゲームの開発・運用を手がける株式会社gumiは、2017年よりVTuber(注1)・VR/ARゲーム・ブロックチェーン事業を3本柱として先行投資を行っていました。
2018年には、投資先のバーチャルタレントのプロデュース・企画・運営企業が「キズナアイ」を筆頭にVTuberブームを巻き起こし、昨今ではDAppsゲーム「マイクリプトヒーローズ(My Crypto Heores)」の開発会社への出資も行うなどブロックチェーンゲームにも力を注いでいます。
そこで、gumi代表取締役会長の國光宏尚氏に、ブロックチェーン業界への参入を決断した理由やデジタル世界に生まれるリアルな経済圏について聞きました。
國光会長の見る未来
コインチョイス編集部(以下、編):國光会長がブロックチェーンに興味を持ったきっかけ、魅力に感じたきっかけはなんだったのでしょうか?
國光宏尚会長(以下、國光氏):最初は、ブロックチェーンやビットコイン否定派だったんですよ。ビジョンとして最先端の新しいテクノロジーにいち早く挑戦し、最先端テクノロジー×エンターテイメントを実現したいという考えはあったものの、ブロックチェーンがそれに値するテクノロジーとは思っていませんでした。
2、3年前ではアメリカのGAFA(Google・Apple・Facebook・Amazonの最大手4社の総称)もブロックチェーンのことを真剣に取り扱わず、AIやAR/VRばかりで、ブロックチェーンに対してはテクノロジーとして懐疑的でした。私も、仮想通貨は投機としての対象でしかないのではないかと思っていたのですが、他の起業家から「起業家が食わず嫌いするの?」と言われたことを皮切りに、否定するならしっかりと調べてからではないかと思い立ったんです。そして、徹底的に調べた結果、「これって本当に凄いのでは?」とブロックチェーンの魅力に気づいたのが始まりですね。(笑)
あとは、シリコンバレーの大手などが、ブロックチェーンという技術に出遅れたということでも、興味が湧きました。GAFAが何故出遅れたのかと考えると、やはり当時はブロックチェーンにニーズを感じなかったからではないかと思います。実際のところ、「自国の政府と通貨への信用が低い国」で仮想通貨は盛り上がり始めました。多くの人がニーズを実感できたのが大きいと思います。現在ではシリコンバレーでもブロックチェーンがトップの話題になっていますが、そうなった転換点として、トランプ大統領の当選と、選挙の際にFacebookのデータを利用したとされる「ケンブリッジ・アナリティカ」の事件があります。この2つによって、アメリカ国民には国への猜疑心が生まれたんじゃないでしょうか。
ケンブリッジ・アナリティカ事件は、Facebookが持つ、ごく一部のデータをケンブリッジ・アナリティカが不正に利用して、トランプ大統領の当選をサポートしたのではという疑惑の事件ですが、ごく一部のデータだけでそこまでできるのであれば、もしFacebookが全力で行ったらどうなるのだろう?と多くの人が考えるきっかけになりしました。その結果、たった1つの民間企業がそこまでの権力を持っていいのかという疑問を、自国民に植え付けることになりました。現在のGAFA批判は、そういった権力の集中に対するものでしょう。
また、シリコンバレーの一部企業には「何をやってもGAFAに勝てない」という閉塞感もありました。そこにブロックチェーンが出現して、「もしかしたらGAFAに勝てるかも」という気持ちの高まりが生まれてきたのだと思います。
編:VR/ARにも注力されているようですが、VR/ARとブロックチェーンは今後交わっていくのでしょうか?その場合、関係性はどのようになっていくと思われますか?
國光氏:やはり最終的に作っていきたいのは、アニメ「ソードアート・オンライン」や、映画「レディ・プレイヤー1」のような世界です。おそらく5年かからずに、リアルとバーチャルの境目がほぼなくなるレベルのものが作れます。ブロックチェーンと組み合わせれば、そのデジタル世界の中にリアルな経済圏を作れるのは大きいです。
例えば「マインクラフト(Minecraft)」のような世界であれば、デジタルアイテムがブロックチェーン上に乗って、唯一性が保証されることで、ユーザーが作った家や家具がアセットバリューを持つことになります。そうなると、リアルで稼ぐのが得意な人はリアルで、バーチャルで稼ぐのが得意な人はバーチャルで、と棲み分けることだってできます。そのワールドのガバナンスが気に入らなければ、ハードフォークして、新しいワールドを作ることもできます。VRとブロックチェーンを組み合せれば、その実現も夢ではありません。
私としては、バーチャルの経済圏の方が格段に大きくなると思っています。一つの外見・一つの性格・一つのコミュニティに縛られる現実の社会と、複数の外見・複数の性格・複数のコミュニティを選ベるバーチャルの社会。バーチャルの方が充実感があり、楽しくなってくれば、不自由なリアルで生活するより、バーチャルで生活することに可処分時間・可処分所得をより多く割く人が増えてくると思います。
編:gumiの子会社でブロックチェーン事業を展開する「gumi Cryptos」では海外(カリフォルニア中心)のプロジェクトに投資していますが、ブロックチェーンに関して、どのようなところに日本と海外の違いを感じますか?
國光氏:今の日本は環境的に非常に有利だと思います。大国とされている中で、日本は唯一規制が整っている国だからです。アメリカや中国には未だ規制がしっかりとなされてはおらず、それに対して、日本は規制に則ってやっていくといいのです。アメリカはSECの証券的なルールやコモディティのルールに織り込んでいこうとしています。中国はこれからの様子を見て、といった感じですかね。
つまり、日本だけがどこまでが合法でどこからが違法かの線引きがはっきりとしています。海外はその辺のルールが不透明なので、いきなり違法だと言われるリスクもあるのです。
編:ブロックチェーンの発展においては、日本と海外のどちらが向いていると思われますか?
國光氏:海外諸国に対して日本はコアなテクノロジーについては弱いですね。プロトコルやセカンドレイヤーなどの技術開発については日本からは生まれにくいと思っています。そのため、開発面に関してはアメリカの土壌を活用した方がベターでしょう。日本が強いのはコンテンツのようなサービスレイヤーで、そこで日本の強みを発揮したいです。そして、中国には優秀な技術者や資金も多く、スケールを拡大するときには中国の能力を活用するのがいいですね。
編:現行の日本の規制に関して、どのように感じていますか?
國光氏:今の規制は「ブロックチェーン=仮想通貨」ということにのみ焦点があると感じています。しかし、仮想通貨はブロックチェーンの可能性のひとつでしかないんです。今後コスモス(COSMOS)などのクロスチェーンが実用化された場合には、税制などが問題になるでしょう。今後、テクノロジーの進化に合わせて柔軟な規制を作る必要はあると思います。
gumiの開発戦略とは
編:「MCH+」というMy Crypto Heoresの開発で得たシステムやノウハウをフレームワーク化したものの提供も発表されましたが、今後の展開はどのようなものを考えているのでしょうか?
國光氏:「MCH+」は、簡単に言えば、誰でも簡単にDAppsのゲームを開発できる環境を提供するものです。My Crypto Heores自体を更に進化させていくだけでなく、ノンファンジブルトークン(NFT)を他のゲームでも使える環境を作っていきたいですね。あと、NFTのスマートコントラクトの設定をより簡単にするなどもあります。My Crypto Heoresを通じて得られたノウハウやテクノロジーをどんどん共有してDAppsの市場を盛り上げていけたらと思います。
編:ブロックチェーンゲームがこれまでのゲームと異なる点とはなんですか?
國光氏:テクノロジーの進化に合わせてゲーム性は変化してきました。昔は「Pay to Play」そして「Free to Play」というものでしたが、現代で一番主流なのは、eスポーツのように見て楽しめるという「Play for Watch」です。そしてブロックチェーンゲームが主流になってくると、「Play to Earn」という「遊んで稼ぐ」ことが可能になるんじゃないかと思っています。ブロックチェーンゲームが面白くなってくると感じるのは、このように技術の進化でゲームが持つ性質が変わって、新たなトレンドを生み出す可能性があることですね。
eスポーツが及ぼした大きな影響は、子どもがゲームをすることに対して、親への口実ができたこと。(笑)eスポーツというジャンルが確立されたことで、プロスポーツのように、ゲームでお金を稼げるんじゃないかと思わせるようになりました。でも、それができるのは才能のある極々一部の人だけなので、実際はお金稼ぎにはならなかったんです。しかし、ブロックチェーンゲームの場合だと、本当に「誰でも」稼げるかもしれないということで大きなムーブメントになりそうですよね。
編:これまで完成度の高く、息の長いタイトルを輩出してきたgumiですが、DAppsゲームであれほどの完成度を出すには何が必要だと思われますか?また、現状のDAppsゲームにおける欠点、問題点などあればお教えください。
國光氏:そもそも、Appleなどのプラットフォーマーのレギュレーションが不明なことで、いつストアから弾かれるかわからないという懸念があるので、ネイティブアプリファーストにできないというのが現状です。それ故にブラウザ上でのゲームにならざるを得なくてユーザビリティの面で劣ってしまいます。それに、メタマスク(Metamask)など決済の使いにくさの問題もまだまだ解決できていません。ゲームのクオリティを上げていくにはフルネイティブにするべきだと考えています。ユーザーもアプリの体験に既に慣れているから、その方が好ましいのは明らかです。
更に重要なのは「ブロックチェーンでなければできないことを実現する」ということです。スマホ初期にはが多くの会社がPC版やガラケー版のゲームを移行しようとしましたが、結局成功したのは「スマホファースト」のものでした。ブロックチェーンについても同じで、ブロックチェーンファーストで、ブロックチェーンでなければできないことを実現したものがヒットしていくと思います。ブロックチェーンならではの特徴で注目しているのは、「トラストレスで自律的に動く分散型ネットワーク」、「デジタルデータがユニークになって資産性を持った」というような条件が、ブロックチェーンならではと言える開発に繋がるのではないでしょうか。
編:開発には独自のブロックチェーンを用いる予定なのですか?
國光氏:独自のブロックチェーンを開発するつもりはありません。ブロックチェーンはそもそもオープンソースですし、その時代において、最善な技術を用いていくつもりです。オープンプロトコル自体は極論何でもいいとも思っています。現に今運用しているフィナンシェ(FiNANCiE)とMy Crypto Heoresはイーサリアムベースでできていますが、それは単に現環境においてマッチしているという判断をしたからです。ユーザーサイドから見れば、プロトコルは気にする点ではなく、そこで何ができるのかということが最重要なので、それに応えられる技術を活用していくことが肝要です。
これからの未来を考えていくと、中央集権か非中央集権のどちらが優れているか、という話ではないと思います。どちらかに偏ってしまうのは問題です。ただ、現代では国家もサービスも過度に中央集権に寄っているようにも見えるので、個人の自由を守るためにブロックチェーンを活用した非中央集権が必要なのではないかと考えています。