2019年3月25日に金融庁から仮想通貨交換業者登録を完了し、4月16日より取引を開始する予定のDeCurret(ディーカレット)。Suicaが仮想通貨からのチャージを検討しているとの報道で、業界外からの注目を集めた同社の時田一広代表取締役社長に、DeCurretの考えるデジタル通貨がもたらす未来についてお聞きしました。
仮想通貨交換業者登録を完了するまでの道のり
コインチョイス編集部(以下、編):2018年1月の設立から、登録まで1年と数か月かかりましたが、想定内だったのでしょうか?
時田一広社長(以下、時田氏):通貨がデジタル化してネット空間を流通するというイノベーションを最大限に活用するために安全で高速なプラットフォームを開発し、仮想通貨にとどまらず、デジタル通貨全般を交換できるサービスを提供することを目的に設立しました。
当初は、2018年12月に開業の計画でしたが、NEM流出事件後、既存業者の検査やガイドラインの見直し等、審査が進むまでに想定以上の時間がかかりました。
編:具体的にどういった取り組みを行っていたのでしょうか?
時田氏:インターネットイニシアティブ(IIJ)と共同で100名以上の開発体制を作り、一年間かけて開発してきました。それと同時に業務設計・開発、内部管理、内部統制の整備を進めました。
仮想通貨交換業のガイドラインが厳しくなり、利用者保護や取引に対する厳格な管理(AML/CFT)が求められました。顧客資産は100%コールドウォレットで保管する等、流出防止に対して技術だけでなく、権限の厳重な管理など組織力や統制力が求められるようになり、元から設計を見直しました。
編:4月16日の営業開始時点では、BTC、BCH、LTC、XRPの取引から開始し、その後ETHも追加されるとのことですが、その後の追加予定は?
時田氏:通貨種類を増やしていくことは前向きに検討しています。ただし、通貨の追加には社内の通貨選定基準との照合や安定的に供給できる流動性の(カバー先)確保、システムの開発が関係しているため、慎重に進めていく必要があります。
編:2019年4月1日、仮想通貨交換業協会の会費が改訂され大きく増額されました。今回の決定について会員としてどのようにお考えでしょうか?
時田氏:協会が仮想通貨取引において利用者保護、健全な運営態勢を整備をするために会員が一定のコスト負担をすることが必要だと考えています。今回の会費設定が正しいかどうかを登録業者である一種会員が話し合って決裁したものです。
仮想通貨×Suica構想について
編:Suicaへの仮想通貨チャージの構想のニュースが話題になりました。
時田氏:協議・検討中であることは事実ですが、現時点で具体的にいつやるのかという計画はありません。その他の電子マネーやスマホ決済含め、仮想通貨を使える場所を増やしていくことが将来のデジタル通貨の普及にも貢献すると考えていますので、仮想通貨を既存の決済サービスにシームレスにつなげる環境を作る必要があると思っています。
編:想定として電子マネーの中にビットコイン(BTC)を保管することもあるのでしょうか?
時田氏:電子マネーは円建ての決済サービスになります。まずは、その決済サービスに仮想通貨等、他の価値をチャージできるような仲介役をDeCurretが担います。現状の電子マネーの仕組みは円を前提としているため、現状ではこれが限界だと考えています。ただいずれ、電子マネーやスマホ決済等の決済サービス側が仮想通貨等複数の価値を取り入れるようになれば、DeCurretから仮想通貨をそのままダイレクトに決済サービスへ価値を移転(チャージ)してお店で仮想通貨のまま支払いをするようなサービスが実現できるようになります。将来、対象がデジタル通貨に広がると決済サービスの加盟店への支払い等にも活用されると想定しています。
今後、別の形でパートナー企業と共同事業していく予定は?
時田氏:さまざまな視点で、各社と定期的にディスカッションをしておりますので、公開できる時期になれば随時発表していきます。その中で、各社が取り組んでいるデジタル戦略についての情報共有をいただいて、既存の事業にどう連携していくか、どのようなメリットがあるかなどを活発に話し合っています。
編:DeCurretの強みや特徴は?
時田氏:仮想通貨の特徴はデジタル(インターネット)の中で資産を移転できることです。交換・保管・送受の三つの基本機能がそれを実現しています。これを安全にかつ高速に処理する技術が必要だと考えていました。
IIJが外国為替証拠金取引(FX)むけに開発してきたシステムをベースに仮想通貨に必要な機能を追加した高速通貨取引システムが最大の特徴です。処理性能と障害への安全対策に加えてサイバーセキュリティ全般への対策もIIJが20年にわたり日本の大手金融機関やネット系金融機関に提供してきたセキュリティサービスをべ―スに構築をしています。
既存の金融機関と同等レベルのシステム安全対策とセキュリティ対策ができています。サービスの面では、スマホアプリとPCブラウザの両方で使いやすい仮想通貨取引だけでなく、電子マネーチャージ等既存の金融サービスとシームレスに連携を指向しています。
仮想通貨業界が抱える問題とDeCurretが考える未来
編:日本の仮想通貨業界の課題や問題点はどこにあるとお考えでしょうか?
時田氏:仮想通貨の流出事件が起きたのは、市場が運営側の想像以上に急成長したことで、システムや体制の整備、課題への対応が追い付かず、後手に回ってしまったからではないでしょうか。インターネットもかつては多くの難題を抱えていましたが、世界中の人々や企業、または国も支援してきたことが、今の社会インフラとして定着した理由だと思います。仮想通貨も課題に対して真正面から向き合い、皆が協力して解決していくことで同様の道を歩むことができると思います。
そのためには、仮想通貨をもっと多くの人や企業に理解してもらう必要があります。仮想通貨そのものの信頼性も問われているので、その信頼回復から始める必要があります。電子マネーチャージのような既存の決済サービスに連携した機能は仮想通貨を保有している人に新しく有益な利用シーンを提供するものです。安全対策だけでなく、このようなサービスの利便性向上も利用者の拡大には重要です。
編:DeCurretではセキュリティに関してどのような対策を取っているのでしょうか?
時田氏:サイバー攻撃に対するセキュリティ対策、仮想通貨の秘密鍵を保管するウォレットにおいての顧客資産の100%コールドウォレット保管に加えて、顧客取引や内部オペレーションを常時モニタリングする機能を整備しており、さまざまな視点でセキュリティにかかる状態を把握できるようにしています。
編:日本における仮想通貨の問題の一つと考えられている税制についてどのようにお考えでしょうか?
時田氏:雑所得に分類されることによる総合課税最大55%から証券取引と同様に20%の分離課税にすることは、決済領域への展開をする上で必須事案であると考えています。
編:「すべての価値をつなげて、シンプルに交換する」というコンセプトを掲げ「デジタル通貨のメインバンク」を目指しているということで、DeCurretが考える理想の社会はどのようなものなのでしょうか?
時田氏:インターネットで資産(価値)の移転が完結できることを最大限に活かしたデジタル通貨の金融サービスを実現している社会がディーカレットのビジョンです。今の金融サービスとの違いはデジタル通貨にはブロックチェーンがあり、そこに取引の情報を記録し、それを利用することで取引と決済の一体化が実現できます。
デジタル通貨の世界では、法定通貨建てのものやSTO、または仮想通貨の開発が進むかもしれません。通貨のブロックチェーンには取引をする相手方の情報、取引内容、その情報の制御等トレーサビリティ機能が組み込まれていくでしょう。その先には、契約や請求・支払いに関わる業務の自動化がされてスマートコントラクトの実現が見えてきます。またさまざまな資産や価値はデジタル通貨に置き換えられ、デジタル空間でリアルタイムかつダイレクトに活発な取引が行われている世界を描いています。