仮想通貨トレードによる最大55%の税率は、投資家たちの悩みの種の一つだろう。仮想通貨をめぐる税制の見直しを主張する参議院議員の藤巻健史氏に、日本の仮想通貨に対する税制と仮想通貨の未来について聞いた。
仮想通貨を学ぶためには、まずは自分でやってみること
コインチョイス編集部(以下、編):藤巻議員が仮想通貨やブロックチェーンと出会ったのはいつごろなのでしょうか?
藤巻健史議員(以下、藤巻氏):仮想通貨を知ったのは4年ほど前だったと思います。マウントゴックスの事件がきっかけだったかもしれません。ブロックチェーンと表裏にある仮想通貨が今後大きく成長しそうだと感じたのと、避難通貨としての将来性があると思いました。
将来性について言うと、私は日本の財政ならびに日銀に対して危機感を持っています。財政危機を先延ばしにしてしまっている部分があり、先延ばしにするということは、何かあった時の衝撃がより大きくなることを意味しています。円の価値が下がった際の避難通貨としての可能性が仮想通貨にはあると考えています。
編:仮想通貨とブロックチェーンについてどのような方法で知見を取得しましたか?
藤巻氏:学ぶには本を読んでいても仕方がなくて、「自分でやってみろ」というのが私のいつもの主張なんです。さまざまな危機に備えて対策しているのですが、その一環として仮想通貨にも触れ始めました。
本を読むこともあるんですが、まず自分でやってみないことには本当に勉強しようという気にならないんですよ。例えば私が法学部の先生で、相続税のことを教えてたとすると、学生は一応は勉強はするんでしょうけど、必死になって勉強はしないですよね。だけど、もしお父さんが亡くなりそうだったら必死になって勉強しますよね。
それと同じで、自分の財布に関係するとなると、やはり必死で勉強するんですよ。実際、勉強するだけでなく、分からないところは本も読みますし、人の意見も聞きますよ。真剣度が自分でやることで違ってくるんですよね。そういった意味でブロックチェーンと仮想通貨についても、勉強しようと思った時に、机上の学問ではなくまず自分でやらないとダメだと思っています。
編:ご自身でも取引されていると?
藤巻氏:もちろんです。避難通貨として仮想通貨を考えるならば、それなりに取引されているものをいくつか買ってみるというのが方針ですね。
仮想通貨の税制見直しの第一歩は政治家の認識不足解消
編:藤巻議員が指摘されている金融庁の仮想通貨の育成方針と税制の矛盾についてお聞かせください
藤巻氏:金融庁は変わってきているのかもしれませんが、仮想通貨に対して育成方針だったにも関わらず、国税庁の税制というのが足を引っ張っているので、両方を管轄する麻生大臣にどっちなんだということを聞いていきたいですね。
仮想通貨交換業者に対しての規制は少し厳しくなってきましたが、やはり銀行と比べるとガバナンスが落ちているのは事実です。将来のために銀行と同等までにガバナンスを高めるということが重要だと考えています。
やはり大きな流出事件があと2、3度起こればもうおしまいかもしれない。だからこそ、きちんと態勢を整えて2度と起こらないようにすることが重要かと思います。
編:ツイッターで日本の仮想通貨に対する方針について「世界に先駆けた育成」と投稿されていましたが、具体的にどういったことが必要なのでしょうか?
藤巻氏:基本的に育成は、規制があるとダメなんですよ。例えば、インドでITが発展したのも、インドという国が放置したからですよね。
先ほど話した規制とは矛盾するのですが、最低限ガバナンスのところはきちんと規制をして、あとは自由にできる環境の方がいいと考えます。日本は規制過多なので、あまり不必要な規制を作らないことが重要だと思います。
編:仮想通貨に対する海外と日本との違いについてどのようにお考えてでしょうか?
藤巻氏:やはり日本はどんどん遅れてきているのではないでしょうか。税制がその要因の一つにもなっていると思います。
編:それでは理想とする税制とは?
藤巻氏:次の4つがあると思います。
- 総合課税から分離課税にすること
- アルトコイン同士の取引には課税しない
- 少額使用の場合は非課税。
- 損失は何年間は繰越ができて、利益と相殺できる。
また税制全体からすると仮想通貨だけでなく、今の税制はITが発達することで限界が近づいてくると思います。特に所得税は、世の中のグローバル化が進むとやはり把握しがたいんですよね。例えば、日本人がA国からB国にモノを送って貿易をするとしたとき、決済をC国の銀行を使用するとなると、国税庁は把握できません。
全体的に税制が変わらなければインターネット社会では通用しないと思います。税金というのは国同士の取り合いになっているという現状もあり、国が把握できない税制というのは、不公平感が高まることにもつながります。真面目な人は損をして、脱税した人が得するなんてことは国としての体裁をなさないですよね。
仮想通貨に関しては、パーセンテージは分かりませんが、最終的に法定通貨から仮想通貨に替える段階で一回だけ課税するという形も一つのアイディアとしてあるかもしれません。
編:仮想通貨に関する税制を整えていく際にはどのような障壁があるのでしょうか?
藤巻氏:政治家の認識不足ですね。特に歳を取っている人ほど、仮想通貨をギャンブルのひとつだとしか思ってない人も多くいます。若い人たちの間では違うと思いますが、仮想通貨に対する固定観念を解消することが重要なのではないかと思います。
私としては、国会で質問していくということで国税庁の人たちに考えてもらうということが重要だと思います。国税庁長官の藤井健志氏などよくお呼びしていますし、そういった人たちが一生懸命考えるようになるわけですよ。考えないと答弁できないですし、質問していくことを続けることで事なかれ主義というのがないように、言い続けて考えてもらうことが重要かなと思っています。
編:実現までの道のり、そしてどれぐらいを目処に実現できるものなのでしょうか?
藤巻氏:税金の場合は、財務省の中であのアイデアはいいとなれば、自民党の税制調査会にあげてもらい、法案が出てくると思います。
時期に関しては、多く質問していけばいくほど早く実現できると考えています。もちろん、「税金を払いたくないから変えろ」みたいな合理的ではない要求は認められるわけなくて、きちんとロジカルに質問と要求を続けていくことが重要。合理的な要求をすれば納得してもらえると思います。
次の国会の論点として税の公平性が出てくると思います。特に今回は、カジノ法案が可決されて、カジノの税制をどうするのかという議論があると思います。そこで、例えば、一時所得になるという話があるカジノ収入に対する税率は最高27.5%なのに、なぜ仮想通貨が最高55%なのかという点で、統一性が無いという指摘もできると思います。また、なぜFXは分離課税で仮想通貨が総合課税なのかという指摘も必要です。
夢を持つことが仮想通貨の発展につながる
編:藤巻議員は金融業界で長年に渡りご活躍されていますが、仮想通貨市場の全体をどう見ているのでしょうか?
藤巻氏:現在の仮想通貨市場はデリバティブの萌芽期と似ているような気がします。私はデリバティブを最初に日本でいろいろなことでやっていた人間で、収益のほとんどがデリバティブからきていました。
デリバティブというのは最初、仮想通貨と同じようにキワモノだと思われていたんですね。その当時に変わった投資や銀行などが、ごく一部の人たちしか飛びついていなかったんです。その後、大発展して、今ではデリバティブは銀行の収益の柱になっています。
欧米の銀行はデリバティブで稼いでいますから、デリバティブは金融業界になくてはならないものに成長しているわけですよ。それと現在の仮想通貨は同じかなと思っています。
若者の間では違うかもしれませんが、高齢者を含めて考えると、まだ仮想通貨に対して不信感を持つ人が多い段階かなと思います。しかし、これから先、高齢者や機関投資家の参加が増えることで変わってくると考えていて、仮想通貨にはポテンシャルが非常にあると思っています。
編:仮想通貨のポテンシャルについて具体的にお聞かせください
藤巻氏:仮想通貨のポテンシャルには2つあると考えていて、1つは先ほど話した避難通貨としてのポテンシャル。日銀はかなり危ない状況になると思っていて、円が危機になったときのために仮想通貨はありだと思う。
もう1つは、仮想通貨自体のポテンシャル。仮想通貨が発展すれば国際ビジネスも発展すると思います。例えばフィリピンなどでは、近くに銀行がないという地域もあり、そういった場所には銀行がないために送金ができないわけですよね。しかし、仮想通貨だと、スマホさえあれば、送金手数料もほぼかからずにバナナを1,500円分送って、ということが可能です。そうすると、世界中にビジネスが広がり、仮想通貨の存在価値というのも出てきて、国際ビジネスには仮想通貨が必要になってくるという意味で、仮想通貨にも将来性があると考えています。
編:最後に仮想通貨を支持する人たちに向けてメッセージをお願いします。
藤巻氏:仮想通貨やブロックチェーンにチャレンジしている若者はたくましくていいと思います。日本は仮想通貨やブロックチェーンによって世界をリードしていく国にならなければならないと感じています。AIなども含めたそのような分野で発展していかないと日本の将来はないですよね。それではあまりにも若者がかわいそうです。やはり夢を持つということが仮想通貨の発展だと思います。なので、夢を持っている若者に期待を持たせてあげたいですし、若者が期待を持てるようにするのが政治家の役目ではないかと考えています。