なぜイーサリアム(ETH)のガス代が2018年レベルまで下がったのか?

どうも墨汁うまい(@bokujyuumai)です。

イーサリアム(ETH)の手数料を決定する「ガス代」はイーサリアム上の分散金融、通称DeFiの黎明期であった2018年の水準まで5年ぶりに下落しており、非常に手数料が安い状態が継続しています。本稿では仮想通貨(暗号資産)最大手のコントラクトプラットフォームの手数料が大幅に下落したのかについて分かりやすく解説を行います。

イーサリアムのガスとは?

そもそもイーサリアムのガスとは「金利を得るためのレンディングや売買を行うスワップ、ETHやイーサリアム上のトークンを送金するような取引(トランザクション)を行う際に支払う手数料」を指します。簡単にいえば車を動かす際にガソリンが必要なように、イーサリアム上のコントラクトを動かすための燃料(手数料)をガスと呼んでいるということです。

主に支払うための手数料をガス(Gas)と呼び、支払うための基準となる価格をガス代(Gas Price)と呼び、イーサスキャン(Etherscan)などで知ることができて使用するウォレットサービスごとに個別設定をすることができます。

EIP-1559による調整

イーサリアムはビットコインと同様の「ブロックオークション形式」でこの支払うガス代(手数料価格)を決定していましたが、この形式には欠陥があり取引を実行するためにイーサリアムブロックに取り込む”「バリデータ」が意図的にガス代を釣り上げることが可能でした。

さらにこれらの取引を意図的にコピーして他のユーザーの取引より先に実行して利益を得る「フロントランニング」が横行したことで、2020年から2022年にかけてガス代は2018年の1000倍を記録。1回の取引で支払う手数料が1万円を超えるのが普通となり、一般ユーザーには手が出せないレベルとなってしまったのです。

そこでこの2つの問題を解決するために導入されたのがEIP-1559で、これは簡単にいうと「その時のブロックに利用する取引(トランザクション)の複雑さに応じて混雑具合を計測し、次のブロックからガス代を上昇またが下落して調整する」というものです。

つまり現状ガス代が大幅に下がったのはイーサリアム上で複雑な取引が減少しており、一見需要が大きく低下しているようことが原因のように考えられます。

関連記事:イーサリアムのEIP-1559のETHバーン数と今後、イーサリアムは更に高騰する?

トランザクション数は大きく下落していない

トランザクション(取引)数はイーサスキャン(Etherscan)によるとDeFiのピークとなった2021年、さらにはNFTブームとなった2022年とほとんど変わっていません。むしろ2017年の仮想通貨バブルのトップの水準を維持していることが分かるでしょう。


出典:Etherscan - イーサリアム上のトランザクション数の推移チャート

これはEIP-1559が、「DeFiやNFTに関連する複雑な取引がイーサリアム上で行われることが少なくなったことでガス代がこのシステムで下落するように調整された状態」であることを示しています。

買い物に例えると、イーサリアムは今まで店頭で対応していた「商品の購入からプレゼント包装、発送手続きから支払いといった複雑な顧客対応」から「ネット予約の事前支払いを受け取る」という簡単な対応に変化し、顧客数は変わらず100万人という状態にあるということです。EIP-1559ではこのような対応の変化に応じてガス代が変動するように設計されているのが大きな特徴です。

この基準となるガス代は、今まで取引を実行するためにブロックに取り込む作業を行っていたマイナー(Miner)に支払われていたガス代を逆にバーン(焼却)してしまうため、現在マイナーの代わりを行っているバリデータ(Validator)の収益、つまり店舗側が対応する複雑さは大幅に改善されているものの顧客数は大きく変わっていないということを表しています。

イーサリアムL2への移行

では取引数は減少していないのに複雑な取引が減ってガス代が下がっている原因はなにかというと、これは「イーサリアムのL2移行が加速している」ということを表しています。

下記表ではイーサリアム及びイーサリアム上に展開するL2(レイヤー2)の秒間に行われるトランザクション(TPS)の推移を示しており、2022年の9月から急激に赤のL2取引が増加していることがわかるでしょう。2023年10月現在ではイーサリアムの5倍となる秒間で60TPSが処理されており、トランザクション数が減っていないことからDeFiやNFTなどの複雑な取引がL2で行われていることを示しています。

出典:L2beat - イーサリアムL1及びL2の秒間トランザクション数(TPS)チャート

この背景には2021年1月のOptimism(オプティミズム)のローンチから、現在最もイーサリアムの代わりに使用されているArbitrum(アービトラム)の2021年8月のローンチから移行がはじまり、現在は2023年3月のzkSync(ジーケーシンク)のローンチ時ではイーサリアムを上回る取引数へと成長していることがわかるでしょう。

この他にも2023年下半期に入ってオプティミズムが提供するOPスタック(OP Stack)を利用したL2への移行がメインストリームとなってきており、コインベースのベースチェーン(Base Chain)やバイナンスのopBNBチェーンなどがこれらを後押ししていると言えます。

従ってイーサリアムのガス代が大きく下がった理由としてはこれまで複雑な取引が行われていたものの、便利で手数料の安いL2(いわばネットショップ)にユーザーが移行したことでイーサリアムというL1(いわば実店舗)の処理が簡単になったことで混雑が解消されたということになります。

またこれらを後押ししたのがレイヤーゼロ(LayerZero)やオービター(Orbiter Finance)がリードするこのL2間での簡単な移行(ブリッジ)であり、ユーザーはシームレスに仮想通貨やNFTアートをブリッジすることが現在では可能であるため、イーサリアムエコシステムは2021~2022年とは比較できないほど巨大なものとなっているのです。

今後デンクンアップデートでL2への移行は更に上昇することになり、ガス代は更に下がることが予測できるでしょう。

関連記事:レイヤーゼロ(LayerZero)とは?なぜイーサリアム上で今注目されているのか

*手数料報酬は実際には焼却するベース手数料(Base Fee)と優先的にトランザクションを取り込んでもらうための優先手数料(Priority Fee)があり、ユーザーの代わりにL2取引をイーサリアムに書き込むシーケンサーがトランザクションを生成しているため実収益は下がりやすい

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