大手メッセンジャーアプリKikを運営するKik Interactive Inc.が2020年5月、Kin改善案を提出しました。その内容は現在のステラ(Stellar)ブロックチェーンベースから、ソラナ(Solana)ブロックチェーンへの移行を提案するものであり、その動向が話題となりました。今回の記事ではKinのこれまでの歩みを簡単に振り返り、そしてなぜ今回Solanaへの移行を提案したのか、その理由を説明します。
Solanaについて基礎的な紹介は下記の記事で行いました。
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Kinのこれまでの歩み
Kinは2017年にイーサリアムブロックチェーン上でICO(イニシャルコインオファリング)を行い、9,800万ドルを調達したことから始まりました。その後、「取引手数料の高さ」や「取引時間の長さ」を理由に2018年第1四半期にイーサリアムの代替プロトコルとしてStellarプロトコルに取り組み始め、最終的にStellarをカスタムフォークしてKinの独自チェーンを走らせています。
なぜイーサリアムからStellarなのかという理由は、Kik Interactiveが2009年から10年以上にわたりメッセンジャーアプリKikを運営してきたその経験から、「暗号資産が主流になるためには、何百万人もの人々が手数料ゼロでほぼ瞬時に取引できる必要がある」ことを理解し、それを重視していたからだと言えます。
この結果として、Kinエコシステムの月間アクティブユーザー数は10万人から300万人を超えるまでに成長した結果を踏まえるならば、その判断は概ね間違っていなかったと考えられるのではないでしょうか。
StellarからSolanaへの移行を検討する理由
では、なぜ今回StellarからSolanaへの移行を提案しているのか。その理由はイーサリアムからStellarへと移行した理由と概ね同じです。Kinが数百万の消費者にリーチできるようになったことで、今度はStellarの限界が認識され始めたこということです。
つまり、Kik interactiveが重視する「暗号資産が主流になるためには、何百万人もの人々が手数料ゼロでほぼ瞬時に取引できる必要がある」という考えから、より速く取引ができ、より安い取引手数料を実現できるブロックチェーンへ移行したいと考えることは自然な成り行きだと言えます。
Kikが限界だと具体的に認識しているのは、Stellarの「パフォーマンス」と「機能セット」の2点です。Stellarのパフォーマンス、つまりブロックタイムはおよそ5秒なので、ネットワークの負荷に関係なく、消費者はトランザクションに5秒の遅延が発生する可能性があります。それに対してSolanaでは400ミリ秒と平均待ち時間がStellarと比較するとおよそ84%の短縮につながります。
また機能セットについては、Stellarがアカウント間のKinの送信など基本的な機能を提供するものの、トランザクションのメタデータを保存できる容量を30バイト/txに制限していることが課題視されています。トランザクションのメタデータは、Kinリワードエンジン(KRE)が機能する上で重要であり、Kinが望んでいるものには程遠いことからSDKはメタデータを省略するか、オフチェーンデータを参照するしかありませんでした。
それに対してSolanaはバーチャルマシンを実装しているため、トランザクションメタデータを大幅に増やすことができます。またSolanaではスマートコントラクトの実装を可能にしているため、ERC20標準に似たカスタムトークンを作成することができます。これにより、トランザクションに追加のメタデータを添付することが可能になり(トランザクション全体のサイズが1KiB未満であることが条件)、メタデータを追加する余地が大幅に広がり、オフチェーンデータ参照への依存度を低下できると期待されています。