NFT領域で注目が集まるPolygon(旧Matic)は、2021年4月に入ってからエンタープライズ領域にも注力を始めている様子がうかがえます。大手ITコンサルティング企業インフォシス・コンサルティング(Infosys Consulting)のシニアプリンシパルであるBharat Gupta氏がポリゴンと共同で行っている保険プロジェクトの詳細についてブログを発表しているので概要をまとめます。
M-Setu:Ethereumパブリック・ブロックチェーン上のマルチチェーン・ブリッジ
M-Setuはポリゴンとインフォシス・コンサルティングの共同プロジェクトで、既存のイーサリアム(Ethereum)のスケーラビリティを気にすることなく、イーサリアムのようなパブリック・ブロックチェーン上で、2つのプライベートな企業のサイドチェーンがプライバシーを確保しつつ相互運用するためのブリッジを提供するものです。
M-Setuという名前は、ポリゴンがセキュアチェーンやスタンドアロンチェーンなどのマルチチェーンをサポートできることに由来して、マルチチェーンからMの文字をとっており、Setuはサンスクリット語でブリッジを意味しています。
ポリゴンとインフォシスは、既存のパブリック・ブロックチェーン・インフラの活用拡大にむけて企業のさまざまなユースケースに取り組んでいます。M-setuの主なメリットとして下記の5つが挙げられます。
- 実用目的で作られていること
- パブリックとプライベートのハイブリッドモデルである点
- 取引が高速
- プライバシーの保護
- 低コストでスケーラブル
保険領域でのユースケース、InsureChain
M-Setu上に構築されたアプリケーションであるInsureChain(インシュアチェーン)は、2つの別々の保険会社が運営する2つのプライベートブロックチェーン間の相互運用を可能にするものです。
Public-Private Sidechains(PPS)のコンセプトを活用しており、保険会社間での健康保険契約の移行をスムーズにすることを目指しています。
インドではある利用者がよりよい価格やサービス、または顧客体験を享受したい場合既存の健康保険契約を別の保険会社に移行することが認められています。移行の需要とメリットは大きいのですが、保険会社間での契約の移行に関する主な課題は多く残されたままです。
【利用者にとっての課題】
・移行して新しい保険契約を作成するプロセスは、新しい保険契約を結ぶのとほぼ同じで、すべての顧客データを再度保険会社に提供し、再処理する必要がある
・保険会社間で正しいデータが共有されていない可能性があるため、給付金が受け取れなくなる恐れがある
・移行に伴うユーザーエクスペリエンスの低下が起こりえる
【保険会社にとっての課題】
・手動で保険をポートするプロセスは非常に煩雑であり、ミスが発生しやすい
・保険会社にとって、データを安全かつ経済的に完全にデジタル化して交換できるシンプルなワークフローがないため、協力するインセンティブがない
・新規保険会社の立場からすると、履歴のない保険を引き受けることはリスクであり、運用コストは新規顧客の加入と変わらない。
【保険規制当局にとっての課題】
・効果的な移行に関するサービスレベルアグリーメント(SLA)のトラッキングの欠如
・複数のプロバイダーにまたがるシステムの透明性と監査可能性の欠如
GitHubを見たところによるとInsureChainの実証実験はイーサリアムのテストネットと2つのマティックチェーンで行われたようです。保険の移行プロセスを簡素化し、企業にとって高い経済性と拡張性を維持するハイブリッドブロックチェーンとしてのポテンシャルがみえるものであったと述べられています。
M-Setuの将来のバージョンでは、ゼロ知識証明のようなより高度なコンセプトを活用して、さらに高いレベルのプライバシーとパフォーマンスを実現しようとしています。InsureChainは、保険会社はサードパーティのアプリケーション開発者が既存のM-Setuプラットフォーム上により充実した機能の構築を可能にすることが期待されています。
参考
・M-Setu: A multi-chain bridge to synchronize private business processes via public blockchain